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2020年4月執筆
そもそもニッケルハルパ(Nyckelharpa)って何なのでしょう?
→ニッケルハルパは「スウェーデンの民族楽器(伝統楽器)」と言われています。
→→スウェーデンの民族楽器とは、つまり「スウェーデンの民族音楽を演奏する時に使われてきた楽器」を指しています。
「スウェーデンの民族音楽って何?」という方は、こちらをどうぞ。スウェーデン民族音楽についてのページへジャンプ
といっても、実はスウェーデンの民族音楽ではニッケルハルパ以外の楽器も使用します。
しかもニッケルハルパを演奏する人は、スウェーデンでも多数派ではありません。
また、多くの人々が「ニッケルハルパがスウェーデンの民族楽器である」という認識を持っており、
スウェーデンの旧紙幣にもニッケルハルパが描かれているものの、
実はその起源がスウェーデンにあるのかどうかは謎に包まれています。
ヨーロッパ大陸の他の国から伝えられた楽器である可能性も高いと言われています。
それでもニッケルハルパが「スウェーデンの民族楽器」と言われる由縁は、
今現在スウェーデンのウップランド地方にのみ伝わっている楽器であり、そこに連綿と続いた伝統があるからです。
(スウェーデン以外の国でニッケルハルパが過去に存在していたのだとしても、今現在は消滅し、伝統が残っていません)
ニッケルハルパはスウェーデンの民族音楽の世界で、
密やかにたくましく生き残ってきた楽器の一つです。
「ニッケルハルパ」。
日本語で一度聞いただけでは覚えにくい名前ですが、スウェーデン語ではちゃんと意味のある名前です。
「金属のニッケルと関係しているの?」とよく聞かれますが、
いえいえ、違います。
ニッケルハルパの「ニッケル=nyckel」という単語には「鍵、キー(英語のkey)」という意味があります。
そして「ハルパ=harpa」という単語は、昔は「弦楽器全般」のことを指していました。
つまり、「キー(鍵盤)のついた弦楽器」です。
日本語だと、どこで切ったら良いのかもわからなくて覚えにくいかもしれませんが、ぜひなんんとなくでも覚えて頂けると嬉しいです。
ちなみに現代のスウェーデンでは、一般的に「harpa」と言うと「ハープ」のことを指します。私も最初は「ハープ」の方の意味なのかと思っていました。昔は「弦楽器全般」のことを指していたんですね
冒頭から当たり前のように「スウェーデン」を連呼していますが…
スウェーデンって、具体的にはどこにあるのでしょう?
↓スウェーデンはこここです↓
左がノルウェー、下がデンマーク、右がフィンランド。
いわゆる「北欧」と呼ばれる地域に含まれています。北欧の定義にも色々ありますが、スウェーデンが外れることはあまりありません。
北欧。よく雑誌でも特集されていますね。
北欧雑貨、北欧インテリア、北欧の暮らし…。
シンプルモダンな新しさと、古い伝統を大切にする価値観が同居する国。
面積は日本の約1.2倍(約45万㎢)。人口は日本の1/12ほど(約1000万人)。(2020年現在)
スウェーデンといえば
イケア(IKEA)。ボルボ。ABBA。ノーベル賞。世界一臭い缶詰。魔女の宅急便の街のモデル。H&M。長靴下のピッピ…
などなど…
写真:首都ストックホルム
Ericsson(今はSony Ericsson)、Spotifyなども実はスウェーデンの企業で、イノベーションも盛んな国なんです。
また、J-POPの楽曲にもスウェーデン人作曲家が曲を提供しているそうです。
意外と日本とも関係が深い国なんです。
ここで1点だけ。
よくスイス(ハイジ)やフィンランド(ムーミン)と間違われますが、違います!
「ス」始まりでスイスと間違われること多数。
「ムーミンとか、マリメッコの国でしょ?」とフィンランドと間違われること多数。
どことも少しずつ違うんです。
「長靴下のピッピ」の国、スウェーデン。
「ニッケルハルパ」という単語とともに、ぜひ覚えておいてください。
※でもムーミンは、実は言語はスウェーデン語で書かれているんです。
作者のトーベ・ヤンソンが、スウェーデン語を母語とするフィンランド人でしたので。
少しだけ、スウェーデンの風景をお楽しみください。
ウップランド地方。車で通りかかり、途中降車した場所。
ストックホルム、ユールゴーデン島の野生のリス。
北の方の街、ウメオにて。ベンチの奥は普段は湖。凍って雪原になっています。
ブレーキンゲ地方にある島Aspö。朝の散歩でこんな風景が広がっていました。
当HPの写真は、プロフィールや演奏写真など私が映っている写真を除いて、私自身が撮影したものを使用しています。
素人が普通のデジカメと携帯で撮っただけでも、こんなにきれいに映るスウェーデンの風景。
すごいですよね。
そのスウェーデンの中でも、ニッケルハルパが伝承されているのは「ウップランド地方」です。
地図の、色が濃くなっているところがウップランド地方です↓
スウェーデンの真ん中あたり。首都ストックホルムの北部を含みます。
Wikipediaより。Lapplänning (highlighting by Lokal_Profil) – Based on Sverigekarta-Landskap.svg by Lapplänning which was based on SWE-Map Kommuner2007.svg by Lokal_Profil, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7028776による
そもそも「地方」とは何なのでしょうか。
「地方」というのは、スウェーデン語で「landskap(ランドスカープ)」と言います。
スウェーデンには全部で25の地方があり、これらは古い時代の行政区分として機能していました。
それぞれの地方にマーク(魚やライオンなどが描かれたもの)があり、特定の植物が象徴として指定されています。
地方名には「ウップランド(Uppland)」のように「○○land」という呼び名のところが多い印象ですが、
「ダーラナ(Dalarna)」や「スコーネ(Skåne)」のように「land」がついていないものもあります。
(landというスウェーデン語には、「土地」や「国」という意味があります)
この「地方」とは別に「県」=「län(レーン)」があります。
「県(län)」は「landskap」をもとに造られた現在の行政区分ですが、
「地方」と全く同じ区分にはなっていません。
例えばウップランド地方は、ウプサラ県全体とストックホルム県の一部を含んでいます。
「地方(landskap)」は現在、行政区分としては機能していませんが、
出身地や天気予報、文化・歴史的な事柄を説明する際には「県」ではなく「地方(landskap)」単位で話す場合がほとんどです。
(landskapについてもう少し知りたい方はWikipedia「スウェーデンの地方」もご覧ください)
スウェーデンの民族音楽とダンスも、「地方」毎に特色が大きく異なっています。
その中でもニッケルハルパが伝承されてきたのが、ウップランド地方でした。
しかし、なぜウップランド地方でのみニッケルハルパが伝承されてきたのかはわかっていません。
ニッケルハルパに限らず一般的にウップランド地方は海に面していて交易が盛んな地域であったため、
新しい大陸文化が入ってきやすく、それがそのまま根付いたのではないかという説明を聞いたことがあります。
(そして大陸の方では次々と新しい文化が生まれてニッケルハルパは廃れてしまったが、ウップランドでのみ生き残った)
現在ではニッケルハルパを弾く人は世界に広がり、音楽も様々なジャンルが弾かれるようになりました。
特にヨーロッパの他の地域では、スウェーデンの民族音楽よりも、ニッケルハルパで自国の音楽(クラシックなど)を弾く人もよく見かけます。
その場合、楽器自体の作りや楽器の持ち方・弾き方がスウェーデン式と違っていたり、音色作りも変えています。
私自身は、スウェーデンの民族音楽を演奏している時のニッケルハルパの音色が一番好きで
その中でもウップランド地方の曲を、特に大切なものとして思っています。(でも他の地方の曲も全然好きですけど)
色々な音楽を演奏するのも全然ありで、私にとって一番大切なのは、誰が何を弾くかよりもその演奏を聴いて自分が何かを感じるかどうかです。