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5.「キー」

「キー(鍵盤)」

ニッケルハルパを見た時に、「なんかすごい複雑そう」って思いませんでしたか?

弦がたくさん張ってある上に、なんかたくさん並んでいる…

「このたくさん並んでいるのは一体どうなっているんですか…?」

と恐る恐る聞かれることもありますが、大丈夫です!

恐くありません。

これらはキー(鍵盤)です。

ピアノの鍵盤のようなものです。

このキーの部分が、ニッケルハルパをよりニッケルハルパらしくしてくれます。

 

2020年4月執筆

キー(鍵盤)について

拡大するとこのような感じです。

キー。スウェーデン語では、「knavrar(単数形はknaver)」もしくは「 nycklar(単数形はnyckel)」。

これらのキーを左手で押さえることにより、音を変えることができます。

 

※「knavrar」と「nycklar」…ニッケルハルパの「キー」の言い方はスウェーデン語で2つあります。

→これは、Ditteという奏者の解説によれば「奏者はキーのことをknavrarと言い、製作家はキーをnycklarと言うという暗黙の了解がある」とのことです。

実際はどうかと言うと、私の周囲のスウェーデン人クラスメイトは皆「nycklar」と言っていてあまり気にしていないようでした。でも確かに「nycklar」と言うと「楽器の部品としてのキー1本1本」の意味合いが強い感じもします。どっちでもいいですかね。

 

では、キーの部分をもうちょっと詳しく見てみましょう。

 

1本1本が長い

キーは縦に長いです。

この縦長のものが、キー1本。

楽器から飛び出ている部分だけではなくて、ちゃんと奥まで繋がっているんですね。

 

ちなみに私の楽器には全部で39本のキーがあります。

 

キーのデザイン

ニッケルハルパは製作家による手作りの楽器です。キーのデザインも製作家によって少しずつ違います。

 

細かい部分ですが、こういったデザインも凝っています。

もしニッケルハルパを間近に見る機会があれば、キーの部分にも注目してみてください。

金色のキー、茶色のキー

こうしてよく見てみると、キーの色が違いますよね。

金色のキーと茶色のキーがあります。

金色と茶色のキー

これはピアノの「白鍵と黒鍵」と同じ役割分担になっています。

つまり、

・ピアノの白鍵にあたる音=「ドレミファソラシ」(#や♭がつかない音)

→金色のキー

・ピアノの黒鍵にあたる音=「#や♭のつく音」

→茶色(黒色)のキー

となっているのです。

例えば写真のキーはシ♭、シ、ド、ド#のキーですが、金色と茶色の並びがピアノの白鍵と黒鍵に対応しています。

ピアノをやったことのある人は、こうして写真で見ると「ピアノと逆向きかあ」と思うかもしれません。

普通鍵盤って、左側が低音で右側が高音ですものね。

でも逆ではないんです。奏者側から見るとちゃんと左側が低音で、右側が高音になっています。

 

キーの配色ですが、「金色と茶色」という組み合わせだけでなく「金色と黒色」の楽器もあります。

 

余談ですが、以前製作家向けのセミナーに顔を出した時に、この金色と茶色の配色を正反対にして作られた楽器を見たことがあります。

その人にとってはその楽器が初めての製作で、楽器を作っている最中は逆であることに気が付かなかったそうです。

その日セミナーで他の製作家に「色が反対なのは何か意図があるのか」と聞かれて、「え?色が反対?本当だ。気付かなかったなあ~。間違えちゃった」と答えていたのがお茶目で和みました。

 

キーの押さえ方

キーは左手の、親指以外の指で押さえます。

ただし、押さえるところは今見てきた「金色」や「茶色」の面ではありません。

その下の面です。つまりここ↓

キーの指がふれる面

この四角形になっている面です。

ここは、楽器を構えるとちょうど下の面になります。

指で押さえている瞬間をアップにすると、こんな感じ↓

「指で押さえる」という表現をしましたが、力はほとんど必要ありません。

そっとふれる程度です。

そうするとキーが上がり、音が変わります。

指を離すとキーは勝手に重力で下がります。

 

指を離す時も、「キーから指を思い切り離す」必要はありません。

ただそっと、押さえていたのをほんの少し弱めればキーは自然に下がります。

指はキーのなるべく近くに置いておくことで、運指がスムーズになります。

 

キーを押さえる時に使うのは、左手の「親指以外の指」です。

親指は楽器のネック(首)裏の部分にそっと当てておくような形になります。

 

キーは3列

キーの配列を見ていきましょう。

普段よく見えるのは一番上の列だけですが、キーは奥まで見ると3列になっています。

重なってて見えにくいですが、奥のキーもきちんと色が塗られています↓

下(奥)の列ほど長さが短くなっています。

指に当たる面の大きさも、一番下の列のキーは少し小さくなっています。

 

タンジェント(löv)

キーは3列ありますが、弾いている間は一番上の列のキー以外は見えません。

「ではどこを見てキーを弾くのか?」というと、この木片の部分を見ています。

この木片を、「タンジェント」と言います。

スウェーデン語だと「löv」。ルーヴ、もしくはレーヴと読みます。「ö」は「ウ」と「エ」の間の音です。

タンジェントの上がり下がりを見て、自分が今どのキーを押しているかを確認しながら弾いています。

 

キーを押さえるとタンジェントが上がる、というのはこういうことです↓

〇で囲った部分のタンジェントだけ、上がっているのが見えますでしょうか?

このタンジェントがメロディ弦に当たることで、音が変わります。

 

また、タンジェントは完全に丸い形●ではなく少し山みたいな形▲になっています。

タンジェントはキーにしっかりとはまっていますが、接着剤で固定されている訳ではなありません。

そのため、音程調節のために回したり、修理のために取り外したりが可能です。

山▲のトンガリ部分の向き(角度)を変えることによって、キー1個1個の音程を細かく調節することができます。

例えばトンガリを写真向かって右側に倒すと音程が低くなり、左側に倒すと高くなります。

 

では次に、このタンジェント部分を見ながらキーの配列を確認してみましょう。

キーの配列

キー3列は、メロディ弦1本に対して1列ずつついています。

「ニッケルハルパの奏法」のページでお伝えした通り、メロディ弦は写真の上の方が低い音の弦写真の下の方が高い音の弦になっています。

また、キーは同じ横一列の中では写真向かって右側が低く左側にいけばいくほど高くなっています。

つまり写真向かって一番右上のキーが一番低い音のキー左下のキーが一番高い音のキーになっています。

※「写真向かって右側/左側」という書き方をしましたが、奏者からすると反対向きになります。

奏者から見て左側が低い音、右側が高い音となっています。

※音として一番低いのはキーを押さえた時の音ではなく「開放弦」の音です。

開放弦とは、「キーを押さえない状態の弦(もしくはその状態の弦を弾くこと)」を指しています。

音を具体的に書くとこのようになっています。

 

書ききれなかったキーもありますが、なんとなくキーの配置がおわかり頂けましたでしょうか?

 

一番上の列の「ド」「ド#」「レ」真ん中の列の「ラ」「シ#」のように、次の列の開放弦やキーとかぶっている音もありますが、

これは和音を弾く時や、離れたキーの音を弾く際に指使いを簡単にする時のためにあえて用意されています。

 

「キーさえ押せば…」?

ここからは余談になります。

 

「キーを押せば音が出るんなら、事前にチューニングしておけば演奏中は音程を気にしなくて良いんだ!」

以前の私はそう思っていました。

 

でも、違いました。

 

「良い音とそうでない音の違いって何なんだろう…?」と考えていた時に、言われました。

 

「キーを押す力加減と、弓の圧力・スピードの全てを調節して、音程をコントロールしながら演奏するのが大切だよ」

 

例えば、キーを強く押すと音程は上がります。弱く押すと低くなります。

また、弓の圧力を高めると音程は下がりますし、圧力を弱めると音程は上がります。

弓のスピードを速めると音程は上がり、遅くすると音程は下がります。

 

弓の圧力とスピードは意識している人が多いのですが、キーに関しては意識していない人も多いかもしれません。

優れた奏者は演奏中も常に相手と自分の音を聞きながら、微妙にキーの力加減を調節しているそうです。

 

「自分の楽器をよく研究すること。

楽器の癖を知り、それを自分でコントロールしていくこと。

音程を合わせることというのは、演奏の準備段階で終わることじゃない。

現在進行形でやっていくことなんだよ。そうすればほら、楽器が歌うでしょ」

 

この“力加減を調節する”スキルは、車の運転や自転車の乗り方に例えて言われました。

「最初は練習が必要だけど、最終的には無意識にできるように」。

 

私にこれを教えてくれたニッケルハルパ奏者、Olov Johanssonも「あまりにも無意識にやっていたのでしばらくは自分がそういう調節をしていると気付いていなかった」そうです。

生徒に教えていて、生徒ができないのを見て気付いたということでした。

 

「“ミスは無いけど心に響いてこない演奏”というのは、楽器が響いていない=楽器が歌っていないことが多い。

反対に、楽器が歌っていればとても素晴らしい演奏になる」

そう言うOlovの演奏は、単純な音の曲も1音1音がはっきりと響いていました。

言っていることが本人の演奏に表れていて、きちんとこちらまで届いてきました。

 

「Eric Sahlströmを始め、昔の奏者もこの技術を持っていた。それは演奏を聴けばすぐにわかる」

Olovにこう言われて、私はとてもほっとしたのを覚えています。

 

『昔の奏者は技術的には未熟だったけど、良い音楽を演奏していた』

『現代の奏者は技術的には優れているかもしれないけど、なんか違う。ソウルが無い』

民族音楽に限らず色々な場面でこういった表現を見かけることがあり、私はその度に違和感を感じていました。

昔の奏者に技術が無かったなんて思わないし、現代の奏者が単なる速弾き屋だとも思わない。

(こういう表現をする人は、きっと何かを納得したくてこういう言い方をしているに過ぎないのだと私もわかってはいるのですが)

Olovの言葉は、その違和感を清々しく吹き飛ばして、良い意味でどうでも良くしてくれました。

Olovに言われたこと、まだ全然できていないんですけど。頑張ります。

 

キーについてもう一つだけ補足です。

キーを押すとカチャカチャと音がします

このカチャカチャ音が嫌で、音が鳴らないように緩衝材を入れるという製作家の人もたまにいます。

が、奏者サイドからすると「微妙な力加減の調節ができなくなるから、緩衝材は無い方が良い」という意見を多く聞きました(製作家セミナーにて)。

結局は好みですが。

ちなみに私は良い演奏をする人のカチャカチャ音が大好きです。

ニッケルハルパの特徴である「キー」のこと、少しおわかり頂けましたでしょうか?

私が初めてニッケルハルパを見た時は、キーがたくさん並んでいてカチャカチャ動いているのが、「ナウシカに出てくる王蟲の足みたいだな」と思いました。

構造が理解できなくてちょっと不気味に思ったんです。

もちろん、今ではきれいだなと思います。

 

「キーのデザイン」の中でも書きましたが、キーも含めてニッケルハルパは「製作家の手作りの楽器」です。

この「手作りの楽器である」ということについて、次の記事で書いています。

どうぞひき続きご覧ください。

 

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