一昨日の記事に続き、ニッケルハルパを特集したTV番組「nyckelharpa」から、ニッケルハルパ奏者Eric Sahlström(エリック・サールストルム)が出演している部分の訳と解説を書いていきたいと思います!
①はこちら→Eric Sahlströmの動画(解説・訳)①
動画
今回は2:18~です。今回は小見出しをつけてみました。
(もしかしたら2:18~ではなくて最初から再生されてしまうかもしれません。2:18まで進めてからご覧ください!)
賞について
Jan Ling(インタビュアー):それから、あなたはたくさんの素晴らしい賞ももらっていますね。
たとえば、Riksspelman(リークス・シュペールマン※国から認められた演奏家の称号)とか。
(※「Riksspelman」…Zornmärket(ソーンメルケ)というコンテストで、シルバー(もしくはゴールド)の評価がつくともらえる称号。スウェーデンで今活躍している(伝統音楽の)ミュージシャンの多くが持っている称号なのでよく耳にしますが、この称号を持っていなくても活躍しているミュージシャンもいます)
Eric:そうですね、Riksspelmanを授賞したのは1946年です。
それからKjällströmsplaketten(シェルストルム基金)や、ゴース・アンダーシュ・メダルなどですね。
(※「Kjällströmsplaketten」…Sven Kjällström(スヴェン・シェルストルム)が1951年に設立した基金。plakettenは「基金」の他に、「銘板」や「盾」「四角いメダル」「額」なども指します。2:28で写っている額縁がそうですね)
(※「ゴース・アンダーシュ・メダル(Gås Anders-medaljen)」…伝統音楽を愛するウップランド地方の芸術家Bror Hjorth(ブロール・ヨット)が、昔の演奏家ゴース・アンダーシュの銅像を作った際に、演奏家を称えるために作ったメダル。ウップランド地方の演奏家を中心に与えられた。関連記事:伝統音楽を愛した芸術家Bror Hjorth(ブロール・ヨット)について)
昔のタイプの楽器と現代的なタイプの楽器の違いについて
Jan Ling:自分の楽器は自分で製作しているのですよね?
Eric:ええ。
Jan Ling:ちょうどこの机の上に、作り始めの楽器がありますね。
Eric:そうですね、側板を切り出したところで、次に裏板をつけます。
Jan Ling:でも昔はそうではなかったのですよね?(昔のニッケルハルパはそういう風には作っていなかったのですよね?)
Eric:その通り。昔は(丸太のような状態の1本の木を)全体をくりぬいて作っていました。こんな風にご覧の通り。
魂柱(ljudpinne)もこんな感じで、裏板(底)を貫通して置かれていました。そして表板をつけます。
(※現代的なタイプのニッケルハルパは側板と裏板をそれぞれ「別の板」で作り、後からくっつけていますが、昔のタイプのニッケルハルパは「1本の木」の中身をくり抜いて作っていたので、側板と裏板がひとつながりでした)
(※「魂柱(こんちゅう)」…表板と裏板の両方にわたっている短い棒。この棒によって表板から裏板(楽器全体)へと振動が伝わるので、魂柱の位置の調整が響きに大きく影響します)
Jan Ling:(それに対して)現代的なタイプだと、魂柱はどのようになっていますか?
Eric:魂柱は表板と裏板の間で、固定することなく立っています。
(※昔のタイプのニッケルハルパの魂柱は、裏板に四角い穴をあけて魂柱を入れ、その位置にそのまま固定して配置していたので、あとから動かすことができませんでした。(裏板の穴から長めの四角柱を入れ、裏板から飛び出た部分だけ後からカットすることで、そのまま穴に蓋をするかたちになっていた)
一方、現代的なタイプのニッケルハルパの魂柱は、f字孔から差し入れるかたちで配置し、特に固定はしないので(表板と裏板にはさまれて立っている形)、あとから位置をずらしたり調整することができます)
Jan Ling:それから、(昔の楽器と今の楽器で)サウンドホール(=穴)もそれぞれ違いますよね。
Eric:ええ、そちらの楽器は古いタイプのサウンドホールですが、こちらは現代的なものです。
魂柱を調整(移動)させたい場合、こちらの(現代的なタイプの)サウンドホールの方が良いんですよね。
Jan Ling:鍵盤機構の部分はどうですか。こちらを見ると、(昔の楽器よりも)たくさんの鍵盤(キー)がついていますね。
Eric:そうです。これはキーが3列ついています。
Jan Ling:そうすると(キーが増えると)何が良いのでしょうか?
Eric:色々な調の曲が弾けることです。
Jan Ling:そしてこちらには異なるタイプのペグもついていますね。
Eric:ええ、これらは(ニッケルハルパのペグとして)含まれないかもしれません。ちょっと現代的すぎる、と言えなくもないですからね。
ただ、こういったペグはとても使いやすくて、チューニングがしやすいのです。
Jan Ling:うまく機能している、ということが大事ですよね。
Eric:そうですね。
Jan Ling:完成した楽器も見てみましょうか。
※短いですが、今回はここまでにしたいと思います。
参考・補足など
サウンドホールと魂柱の話が出てきていましたが、こんな感じです↓

現代のタイプは穴がf字の形で、駒のすぐ横にあるので、ここから魂柱を調整できます。魂柱はこの、中に入っている棒です↓水色の線で囲った部分。

一方で、昔のタイプは穴が丸く、駒の横ではなくて少し離れた所に穴があります(私が古いタイプに詳しくないので、ちょっと自信が無いですが)↓


どっちの方が良いというものではないのですが、現代的なタイプは「1930年頃にAugust Bohlin(アウグスト・ボリーン)によって作られ、その後Ericがさらに発展させた」とよく言われているので、Ericとしてはかなり色々と工夫があったのだろうと思います。
参考
・ゴース・アンダーシュ・メダルについて→Gås Anders-medaljen(Wikipedia)
このメダルですが、ウップランド地方の20世紀の演奏家に関する話でよく出てくるので、名前だけは聞いたことがあったのですが。
調べてみると色々と紆余曲折や、思い入れがあった(当時のZornmärketが「演奏家ではない人が審査員を務めていた」「最高賞のゴールドの賞が演奏家以外に贈られることも多かった」ものだったらしく(今は違う)、それに対して抗議する意味合いで(演奏家による演奏家のための賞という意味合いで)作られた)とも言われているそうです。
・Kjällströmsplakettenについて→『Uppländske spelmän』(Lars Erik Larsson著)p.243参照
・楽器製作について参考→ニッケルハルパ製作家Esbjörn Hogmarkの動画紹介①、ニッケルハルパ製作家Esbjörn Hogmarkの動画紹介②、ニッケルハルパ製作家Esbjörn Hogmarkの動画紹介③
(特に②・③あたりで木材を切っているので、ニッケルハルパの形がよくわかると思います)
・もう1つ、楽器製作について参考動画→ニッケルハルパ製作風景動画(Mats Wester)の紹介
補足
一昨日の記事(①)でBo Nilssonという作曲家の話が出ていましたが、EricのWikipediaを読んでいたら、「Ericは1962年にBo Nilssonに(演奏家として)雇われ、ヴェネツィア・ビエンナーレで(Bo Nilssonの)新作を弾いた」とありました。
それで「Bo Nilssonの曲を弾いた」と言っていたのですね。納得です。一昨日の記事にも追記しておきました。
(また、この話が本(Uppländske spelmän)にも書いてあり、当時演奏したBo Nilssonの曲についても、もう少しだけ詳しい情報が載っていました。今回はあまり掘り下げませんが、機会があればそちらもご紹介したいと思います)
では、続きはまた明日です!
