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「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説①

/ ニッケルハルパ奏者

昨日、From-Olleという演奏家について少しご紹介したのですが、その記事の最後に「Ingen som jag」という、From-Olleを題材とした演劇(スウェーデン語)の話をしました。

こちらの劇の動画がYouTubeにあり、フルで見られるのですが(30分の動画×3つ、全部で90分くらい)、内容がとてもおもしろく音楽も素晴らしいので、日本語での解説をまじえてぜひご紹介したいと思います。

内容ですが、私も理解できていない部分もあるので(すみません)、シーンごとに「どんなシーンなのか」「誰がどんなことを言っているのか」(「本編に関わるのかあまり関わらないのか」)など、できる範囲で書いていきたいと思います。

「Ingen som jag」概要

タイトルの「Ingen som jag」は、「自分のような人は他に誰もいない(自分は皆と違う、自分のようにできる人は他に誰もいない)」といった意味です。

(自分というのは、From-Olle自身のことを指しています)

舞台監督:Peter Oskarson、原案:Börje Björklund、脚本:Margareta Ekarv、音楽:Fredrik Lindh & Jonas Olsson(演奏は他にも複数名で担当)。

また、From-Olleや当時に関する調査は、演奏家のÖrjan-Hans Ersが担当しており、彼は劇中でも「現代のフィドル奏者」として登場しています。

主催している劇団はFolkteatern Gävleborgです。HP→https://folkteaterngavleborg.se/

おおまかな内容

ヘルシングランド地方の演奏家「From-Olle」(フロム・オッレ、1796-1876)の人生を描いた戯曲です。

彼についてはわかっていないことが多いので、当時の演奏家としてのFrom-Olleの姿を想像して作られた作品になっています。なので、「事実に基づいたフィクション(事実に肉付けしたフィクション)」としてご覧いただくと良いのではと思います。

戯曲の構造としては、「現代のある演奏家(登場人物名は無し)が、ヘルシングランド地方の演奏家について調べていて、From-Olleをとりあげる」という設定です。

最初と最後、そして途中に時折、その演奏家のナレーションが入ります。また、舞台上でフィドルを弾いて登場するのもこの彼で、登場人物たちには見えていません。

参考記事:From-Olleについて

内容

(最初の方は特に詳しめに解説していきます)

ある演奏家の語り(~1:00):

「私は1963年、ヘルシングランド地方のJärvsö地区、Nordsjöに生まれた。小さい頃(若い頃)から、伝統音楽に興味を持っていた。あらゆる演奏家たち、彼らをめぐる話や、伝説について。

『彼ら古いヘルシングランド地方の演奏家のうちの誰かについて、すべて知ることができたら、どんなに良いだろうか』とよく考えていた。

でも、誰を選んだらいい?

(さまざまな演奏家の名前を叫ぶ声。最後はFrom-Olleと叫ぶ声)

選択は、そう難しくはなかった。From-Olleだ。すべての素晴らしい演奏家の中でも、最も偉大な人」

オープニング(1:00~)

・大きな人形のFrom-Olleが演奏し、周りで人が踊る。

(※人形のボーイング(弓を動かすリズムやタイミング、上下の動き)は音楽に合っていて、典型的な8分音符ポルスカのボーイング(1拍目↓2拍目↑3拍目↓↑)になっています。足踏みもポルスカの「1・3」のリズム(1拍目と3拍目で足踏みする)です)

1人、特徴的な見た目の女性(長髪・黒髪のもののけ姫みたいな女性)がいると思いますが、彼女は「サーミ人」という設定の登場人物です。

サーミ人はスウェーデンの北方の先住民族ですが、南の方に定住している方もました。

当時は少し「エキゾチックな存在」として人々から見られていたこともあり、この戯曲の中では、もう1人のサーミ人の男性(女性と同じような恰好で帽子をかぶっている人)とともに、あえてトリックスター的な存在(物語をひっかきまわす・ひっぱる役)として創作され、描かれています。(From-Olleの人生には直接的にはあまり関わりません)

(おそらく)From-Olleの葬式の場面(2:50~)

・階段をおりるFrom-Olle(フィドルを床に置く)、見つめる演奏家、葬儀を行うひとたち(葬儀をとりおこなう司祭の声が聞こえている。季節は冬)

時代がさかのぼる。From-Olle誕生前、戦地にいるFrom父(兵士)と上官のやりとり(6:00~)

・「長靴(ブーツ)が無い、どうしたんだ」と言う上官と、「今は厳しい状況でそれどころではないんですよ」というFrom-Olleの父。上官に自分の靴を履かせる。

・上官「ロシアは寒い。今回こそは我々がロシアに勝つ!」。話を合わせるFrom父。

・上官「From、お前はバイオリンを弾くそうだな。音楽はすべての芸術の中で最も美しい。今夜、この戦いが終わったら、ぜひ聞かせてくれ」(上官の会話はすべてフランス語なまり)。まんざらでもないFrom父。

・音楽に合わせて男性たちが行進し、戦っている様子(8:30~)。その後どんどん負傷し倒れていく。

・負傷する上官(「戦いが終わっても音楽は永遠だ、モーツァルト、フォルテシモ」と叫ぶ)。

※ここでは、1788~1790年の第一次ロシア・スウェーデン戦争(リンクはWikipedia)の様子を描いているのではと思われます。From-Olleの父は兵士でした。

鶴の到来、はしゃぐ村の女性たち(10:48~)

・女性たち:「やっとだ」「どれだけ待ちわびたことか」「ずいぶん長い間遠くへ行っていたのね」「このブーツとも今年はもうさよならだ!」と喜んでいる。

※おそらくですが、「鶴(クロヅル、Trana)が来た=春が来た」という意味で喜んでいるのだと思います。当時のこの地での冬の厳しさを物語っている場面です。

・(男性たちが戦地に行っているので)女性ばかりで雪かき(のようなこと)をしている。はしゃぎながら。


この後、負傷した兵士たちが帰ってきますが、時間がなくなってしまったので今回はこの辺で終わりにします。

続きはまた明日書きます。From-Olleの誕生の場面です。