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「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説③

/ ニッケルハルパ奏者

19世紀の演奏家From-Ollle(フロム・オッレ、1796-1876)の人生を描いた劇「Ingen som jag」の解説③です。

これまでの記事はこちら↓

「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説①

「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説②

前回までの内容

前回の部分までで、From-Ollleの誕生と、青年期への成長が描かれていました。

彼の演奏についての奇妙な噂(「From-Olleの演奏は変わっている・不思議だ」)を村の若者が話していて、それに対して、サーミ人の男性が語り始めるところからが、今回の部分です。

(セリフが所々わからない箇所があるので、今回もちょっとずつ端折りながら、できる範囲で書いてみます)

解説

※昨日の続き(23:49)から再生するようになっています。

サーミ人の男性の語り

男性:「自分の手(力)であんな風に弾く人は誰もいないね。この意味がわかるでしょ?

…わからない?

よく目をこらしてみるんだ、一日中。特に夜。夜こそ『力』が分け与えられる。川(Kvarnfallet)のあたりでね。

ほら、From-Ollleがこそこそとやってくるのが見えてきた。フィドルをわきに抱えながら。

あれは月の出ている夜、木曜の肌寒い夜のことだった。

彼はフィドルを手に取り、そして立ち止まり、彼の帽子から…彼の帽子は見たことがあるよね?兵士の父親から受け継いだあの帽子…

彼がその帽子についていた自分の髪の毛を何本か取り、フィドルの弦の下に差し込むのを、私は見た。

彼は水辺の樹の枝にそのフィドルをひっかけた。私は白樺の裏からそれを見ていたんだ。

そして彼はそこから去って行った」

(音楽が止む)

「私は白樺の裏に立ち、『今なら何が起きてもおかしくはないぞ』と思った。『さあ、目を離さないぞ!』と」

(ドン!)

「何が起きたのかわからなかった。わかることなんてできない。

川の方を見上げると、そこには何があったと思う?そう、2つのフィドルが枝にかかっていたんだ!

言い伝え(※ネッケンの言い伝え)は本当だった」

(音楽が奏でられ始める)

「そして金曜日の朝になった。

日はのぼり、肌寒さも消えていた。

かわいそうなキツネがやってきた。彼女は私と同じくらい好奇心旺盛だった」

(※劇中でサーミ人の女性を演じている人が、ここではキツネを演じています)

「キツネは水面に鼻を近づけながら、何かが樹にかかっているのを見つけた。『ここには昨日は何も無かったのに、なんだろう?』と鼻でつつきながら不思議に思った。『もしかしたら食べられるものかもしれない』と。

日の光が水面に輝き、フィドルは風に揺れ、太陽のもとでとても美しく光っていた。

風に揺れるフィドル。

そして私には音楽が聞こえてきた。こんなに美しい音楽は今まで一度も聞いたことがない。まるで天国にいるかのようだ」

(後ろにネッケン(Näcken)のシルエットが見え始める。ネッケンの音楽。26:08~)

(早口で)「私はなぜか動くことができなかった。

キツネは頭を傾けてそこに座りただ聞いていた。

そして怖くなったのだろう、キツネは逃げていった」

(キツネがいなくなり、物音がする)

「私は彼(From-Olle)の足音を聞いた。そう、彼が来たのだ。

彼は振り返り、少し考えている様子だった。

そして彼は橋の下の石に飛びうつり、少しためらったのちに、手を伸ばした!」

(2つのフィドルから1つを選ぶFrom-Olle。男性は笑い、踊り、キツネは鳴く。ネッケンの音楽が続く。~28:15)

(※ネッケン(Näcken)は水辺に棲む精霊です。男性の姿をしていてフィドルを弾いています。詳しくは→ネッケン(Näcken)について。2つのフィドルの話もこちらの記事に書いています)

貧しさ・飢えをしのぐ方法を歌う村の若者たち

女性:ああ、この毎年の私たちの心配ごと。

歌:もうすぐ食料も尽きる。お金が無くては誰も動くこともできない。それ(※冬?)はすぐそこまで近づいている。どうしたら良いだろうか?

男性:それなら私たち若者は森へ行き、一番美しい樹の最も心臓に近い部分を切り倒すだろう。(※ここ、違っていたらすみません。後で直します)

歌:それを丁寧に運び、太陽のもとで乾かし、その丸太を小屋に使う、慣習の通りに。

(その後も、「穀物を乾燥させ、オーブンでさらに乾かす・粉にして水と混ぜる(パンにするために)等、生活の工夫を歌う。繰り返し歌っているフレーズは「慣習の通りに」)

・女性たちがパンを焼き上げる。「これは神のご加護を受けたパン」。

(From-Olleはこの間立ち尽くしている。→フィドルにかけては一流だが、村の貧しさや飢えには対処する術を知らない・村の若者たちとは違う特殊な存在、ということを表しているのかもしれません)


今回はここまでです。

ネッケンが出てくるとやはり盛り上がりますね。ここの場面(とオープニング・エンディング)が、私はこの劇中で一番好きです。

2つのフィドルから自分のフィドルを選ぶ際、「髪の毛を使う」という方法は私も聞いたことがあったのですが、「どうやって使うんだろう?」と思っていたので、「弦の下にはさんでおく」というやり方なんだな、と思って勉強になりました。

また、ネッケンに会うためには「月が出ている晩」でなければいけない、というのもよく聞きますね。月が見えない時(新月の頃)や、くもりの時はだめということなのかなと想像していますが、詳しくはわかりません。

ネッケンや精霊系の曲は、私がよく弾く悪魔のポルスカもそうですが、ピチカートの「ポロン、ポロン、ポロン」というフレーズがとても特徴的です。ここが素敵なんですよね。

(ニッケルハルパで弾く時はピチカートではない弾き方になってしまいますが)

余談ですが、このネッケンの場面の音楽をNorthern Resonance(ノーザン・レソナンス)というトリオが演奏しています。

「Ingen som jag」の劇自体は1997年頃のものですが、Northern Resonanceの彼らは私より少し若い方々だと思います。このCDも2020年のものです。世代を越えて曲が演奏されるというのが、また良いですね。

では、明日は次の部分にいきます。一体いつになったら終わりまでたどりつくのか…という感じですが、明日以降の部分は細かいセリフは飛ばしていきますので、サクサク進めると思います。