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あるミュージシャン(Ditte)の音色について語る。

/ ニッケルハルパ奏者

留学先の先生(ミュージシャン)の話です。

Ditte Anderssonというニッケルハルパ奏者がいるのですが、留学していた時、私は他の先生に比べて、このDitte(ディッテ)の演奏の良さをたぶん「10%くらい」しか理解できていなかったのではないか、と思うんです。

というのも、よく授業中にお手本で弾いてくれたり、それを教室で録画したり(楽譜を使わないので、必ず録音・録画タイムがあります)したのですが、その時にはなんか正直、(かなりぶっちゃけて書くと)そんなに「うまくない」感じがしたんです。(※素人の感想です)

それは私だけでなく、クラスの皆も結構言っていました。(※全員素人の感想です)

でもね。

コンサートとかでDittteが一人で弾いているのを聴くと、すごく良いんです。

本人は弾き方をあまり変えていないつもりなのだと思うけど、何かが変化しているのかいないのか。

とにかく、よくわからないけど「良い」ということだけはわかる、しかも「すごく良い」。なんというか、「美しい」。

これは本人のCDを聴いても同様でした。CDやコンサートで聴くとすごく良い。美しい。

なぜかはわからない。なんとなくわかるけどわからない、そんな感じでした。


留学していた時は、そこまでしかわかりませんでしたけど、今あらためて授業中のDitteの演奏動画を見ていると、やっぱり授業中の動画にもDitteの良さは出ているなと思いました。

そもそも私が「うまくない」感じがすると思ったのは、他の奏者と比べてDitteが弾く時には弓がふらふらっとしていて、軌道がきれいでない感じがしたとか、ところどころ雑音が入る感じがしてなんとなく雑っぽく感じた、とかなのですが(※素人の感想です)、まず弓がふらふらっとするのは、Ditteの弾き方は音の弾き始めに弓をボンッと素早く「バウンド」させているからなんですね。

他の現代奏者は割と「弓を引っ掛けてコントロール」する派が多くて、そのコントロール具合(弓をどのくらい弦に引っ掛けるのか、もしくはもういっそのこと押しつけちゃうのかとか、その押しつけ具合とか)で音色がかなり変わるし、響きが変わってきます。(Ditteがコントロールしてないわけじゃないと思いますが、少なくとも弓を弦に「ずっと押し付け」たりしていないのは伝わってきます。その代わり離しもしません。音の切り替わりで弓を離しまくる弾き方だと音色が途切れてしまう)

ちなみに弓を「コントロール」していると、見た目がすごくきれいで(すーっと、もしくはタカタカと弓を動かす感じ)、音もコントロールされている音がします。なんか「バシッと決める弾き方」って感じ。カッコいい、みたいな。

その点Ditteは「バウンド」させる、しかもそれがすごく早い、かつバウンドさせた後の弓の動かし方がとても軽いので、ふらふら~~って感じで、コントロールを外しているような感じに見えるのです。(こうやって書くと酔拳みたいですね)

このバウンド(とその後の、ふらふらするくらいの軽さ)が、とてもめちゃめちゃDitteの音色を作り上げている、というのが私の今の印象です。

どういう音かというと、「太い響き」と「ゆらぎ」がある音です。

「音が大きい」という意味の響きではなく、音自体が太い響きがあって、「楽器の奥の方に響いている」感じ。あれ、これどこから聴こえてくるの?みたいな。「弓を弦に押しつけて大きくしている」のではなくて、むしろ「弓を離す」ことで生み出せる響き。

それから「ゆらぎ」。

さっき雑音がどうのと書きましたが、雑音も雑音として処理できないなと思っていて、その理由はここにあります。雑音だけじゃなくてリズムとかもそうなのですが、「あえてゆらがせている」というのを感じる演奏というのがよくあって、Ditteの演奏もそんな感じがするんです。これが話題の「1/fゆらぎ」かどうかはわかりませんが、このゆらぎがすごく良い。美しい。いわゆる「機械的な演奏」には真似できないような。

なので、音色としては他の人よりもかなりツンとしている感じもするんです。キンキンするような出だしなんだけど、すぐに響きがプラスされるから、そのツンデレ具合がゆらぎになって魅力だし、響きだけが後に残ってマイルドに終わる。

ゆらぎと太い響きのバランスが、めちゃめちゃDitteだなあ、って感じがします。特に分散和音とか、1音1音が短いフレーズの時とかに響かせて弾くところがすごく良いなと思います。あれは多分、響かせないと逆につまらなくなってしまうかなあ(ニッケルハルパの良さが減るというか、他の楽器で弾いているみたいな響きになるかなあ)と思うので。

演奏中の見た目とか、機械的な精巧さだけにとらわれていると聴こえてこないことがたくさんあります。

(たぶん授業中は、音楽を聴くことよりも「自分の中での『上手い奏者の奏法』のイメージに引っ張られてしまって、そのフィルターを通して見ていたから「良さ」に気付けなかったんだと思います。上手い人はこういう見た目で弾くはずだ、という先入観があった)

とか言いつつも、これが全てじゃないので、何を選ぶかは自分次第です。精巧な音もバシッと決める音もカッコいいし美しい。Olovとかはバシッと決めつつゆらいでいて、Ditteとは違う意味でバランスが絶妙。Ditteとは違う意味でツンデレしていてそれが良い(個人的には、全くゆらいでいない音はあまり魅力的ではないと思うし、ツンデレはニッケルハルパには必須。あった方が魅力倍増)

同じ楽器と弓なのに、弾き方次第で全然違う音が出せるのはすごい。やばい。

私はどうしたいのか、まだ決めかねています。