ニッケルハルパの動画レッスンというものをやっているのですが、その動画レッスン用の動画を毎月撮っています。
・動画レッスンについて→レソノサウンド動画レッスンサイト
それで、年末(11月・12月)の選曲は、基本的にルシア祭の曲やクリスマス関連の曲を撮っているんですね。
今回はこちらに関連した話を書いてみたいと思います。
ルシア祭とは?
ルシア祭は、12月13日に行われるスウェーデンの伝統行事です。暗い冬に、聖人ルシアが「光」をもたらしてくれることをお祝いするもので、白い衣装を着てろうそくや星型の飾りを持った合唱団が、教会などで歌を歌います。
合唱団の中には、1人だけルシア役の人がいて、この人は、火をつけたろうそくを何本も立てた王冠を頭にかぶって、歌います。日本でこれを紹介すると、だいたい「八つ墓村」みたいだと言われます。私もこの役、スウェーデンでやりました。えへへ。自慢です、すみません。
(この動画には男性がいませんが、きっと後から出てくるのだろうと思います。普通は男女両方います。そして、男性は少し小道具が違っていて、ろうそくではなく星形の飾りを持って、帽子をかぶっている(東方の三博士に扮している)ことが多いです)
この時期は、ちょうど一年で一番暗い時期になるわけですが、ルシアが光をもたらしてくれることで、それからどんどん日が長くなっていくんですね。
ルシア祭、日本語だと「祭」とつけてしまうことが多いのですが、スウェーデン語ではただの「Lucia」(ルシア)です。「お祭り」という雰囲気ではなくて、本当に「伝統行事」という感じで、歌を聞きに行くイベントになっています。
クリスマスとは日にちが違いますが、別物というわけではなく、「クリスマスの一環」「クリスマスを盛り上げるイベントの1つ」という感じで楽しまれているように思います。
ルシア祭の思い出
ルシア祭、良いですよ~。
私はルンド大学に留学した時に、このルシアのお祝いを初めて見に行って、夜の暗い教会の中で、たくさんのろうそくの灯りの中、大学生合唱団の歌を聞きました。とても良かったです。静かで厳かで、ろうそくの灯りがきらめいていて癒されました。
また、ブレーキンゲの学校の演劇学科に2年間留学していた時は、その学校の伝統として、「地域のルシア祭を演劇学科が担当する」ことになっていたので、12月13日の本番に教会で歌うのはもちろんのこと、それまでの2週間くらいの間に、地域の園芸サークルの集まりに歌いに行ったり、養護老人ホームに歌いに行ったりしました。毎年10か所くらいですかね。
着替えるスペースとかが無いので、学校の寮から白い衣装を着ていって、ろうそく等を持った状態で皆で町を歩いていたのがシュールでした。しかもあの衣装、上にコートを着ても、なんだか寒いんですよね。12月のスウェーデン寒いので。
会場についたら、急いで準備してろうそくに火を点けるのですが、それが毎回慌ただしくておもしろかったです。全員火を点け終わっていないのに、行進の列の最初の方の人が「サンタ~」とか言って歌い始めてしまって、「待って!待って!」みたいになることもよくありました。
ルシア祭というと、やっぱり子どもたちがやることも多くて(学校のイベント、地域のイベントなどなど)、その場合はろうそくは本物ではなくて、ライトのついているものとかで代用している印象です。
ルシア祭の歌は伝統曲に含まれるのか?
もちろん含まれますよ~。これって普通に伝統音楽ですよね。
…と、少なくとも私はそう思っています。広い意味の「伝統音楽」としては、ですね。
一方で、狭義の「ニッケルハルパの曲」や「フィドルの曲」という意味で言えば、それらとは性質が少し違う、という意見にももちろん賛成します。
たとえば、「ルシア祭の歌」と、「ウップランド地方で伝わっているニッケルハルパの曲」、というのはイコールではないですね。
伝統音楽の中にも色々なものがあって、私や他の奏者の方が普段よく演奏しているのは、「ダンスの伴奏曲」が多いと思います。ポルスカ、ワルツ、ショッティス、など。
そして、伝統音楽(Folkmusik)というものは、ダンスの伴奏曲だけでなく、様々な曲によって成り立っています。中世のバラッド、子守唄、家畜を呼ぶ歌、などなど。
というか、「Folkmusik」という概念自体がとても包括的なものなので、様々な曲(古い曲)がそこに含まれているわけです。ダンス曲も、歌も。伝統行事の音楽も、個人的なささやかな音楽も。
なので、ルシア祭の歌は、「スウェーデンの伝統音楽」にはもちろん含まれているけれど、狭義での「ニッケルハルパの曲」(ニッケルハルパで演奏されてきた曲)かと言われると、「そこはまた別物」と言う意見の人がいるのは、なんとなく納得できるかと思います。
また、話が少し広がりますが、ダンス曲や楽器で演奏されてきたような曲も、地域や曲によっては、演奏楽器の「メイン層」みたいなものがあることがあって、たとえばウップランド地方ならニッケルハルパで演奏されることの多い曲とかがありますし(でもフィドルやクラリネットもありますが)、他の地域ならフィドルとか、笛とか。
そういう意味で言うなら、たとえば「フィドルがたくさん演奏されてきた地域の曲」というのは、厳密には「ニッケルハルパの曲」とは言えない、という意見もわかりますね。「もともとニッケルハルパで演奏されてきた曲」ではないですから。
(ただし、「ニッケルハルパの曲」という言葉が何を指しているのかによって、意味合いは変わってきます)
「ニッケルハルパの曲じゃない=ニッケルハルパで弾いてはいけない」?
じゃあ、もともとニッケルハルパで弾かれていない曲は、ニッケルハルパで弾いてはいけないのでしょうか?
そんなわけ無いじゃないですかー!!
そんなことを言う人がいるなら私がぶっ飛ばしますよー!!精神的に!!
というのはまあ冗談ですが、実際、似たようなニュアンスのことを言う人はいます。
そして、私もそういう発言をする人の意図はわかっているというか、理解しているつもりです。
要するに「もともと演奏されてきた楽器(や歌)とその演奏方法に、敬意を払って欲しい、尊重して欲しい」ということなんだろうなと思います。
それは当然ですね。
敬意を払うのは当然、尊重するのは当然として、リスペクトを抱いたそのうえでの話なのですが。
たとえばルシア祭の歌やクリスマスの歌をニッケルハルパで弾いたり、フィドルの曲をニッケルハルパで弾いたり、反対にニッケルハルパの曲を別の楽器で演奏したりというのは、私は全然良いと思っています。
というか、それを「ダメ」って思ってしまうと、つらいです。弾ける曲を制限して、自分の可能性を狭めて。その曲が広がっていく可能性も、潰しちゃっているような気がするんですね。
あと、楽器によって「できること」と「できないこと」というのが当然あるのですが、そこは「工夫して、できる範囲で演奏すれば良いんじゃないかな?」と私は思っているし、アレンジしても良いと思っているんですね。
それはこちらの腕の見せ所です。
(よく、「自分の楽器ではこの音や演奏方法ができるけど、あなたの楽器では無理ですね」としつこく何度も言ってくるタイプの人たちがいて、言っている内容はもちろんわかるのですが、私は正直「嫌だなあ、うざいなあ」って思っています。楽器が違うなら、できることが違って当然だし、だからおもしろいのでは?と私は思うのです。「あなたの楽器ではこの音は出せませんね」っていちいち何度も言われるのは、すっごく嫌な気持ちになるし、言われて嬉しい人ってあまりいないような気がします。私自身も気をつけよう)
歴史的に見ても、別の楽器で演奏されていた曲を、さらに別の楽器で弾くようになって…というのは、わりとよくあることですしね。
で、ここで話がルシア祭やクリスマスに戻るのですが。
ルシア祭やクリスマス関連の曲も、そういう意味では「ニッケルハルパの曲(もともとニッケルハルパで演奏されてきた曲)」では無いものがほとんどなのですが、「だからと言って、弾かないのはもったいない!」と私は思うわけです。
そして、そういう方向性で自分が弾く曲の可能性を広げていくと、それは自分の楽器との付き合い方の可能性や音楽の楽しみ方をより広げてくれるのではないかな~と。
留学から帰ってきてすぐの頃は、演奏の打ち合わせで「スウェーデンのクリスマスの曲を弾いてください」とリクエストをいただく度に、「え…クリスマスの曲…!?無いんですけど…(ポルスカやワルツには、クリスマスと関連づいた曲があまり無いので)。どうしよう…」と、頭を悩ませていたのですが、「伝統音楽」というくくりで見れば、ルシア祭やクリスマスの歌って、たくさんあるのです。
なので、そういう曲をニッケルハルパでアレンジして弾くことで、演奏も楽しんでいただきつつ、MCでスウェーデンの冬の伝統行事の紹介もできちゃって、私もお客さんもイベントの主催者さんも皆ハッピー!!…と、なれるのでは、と思うようになりました。
そんなわけで、動画レッスンでもルシア祭やクリスマスの曲を取り入れているし、ぜひ楽しんでいただけたらなあと思う次第です。
ということで、ルシア祭やクリスマスの曲関連で思っていることを書いてみました。
演奏曲って、「無い」と思えば無いし、「ある」と思えばあるので。
弾く曲が無い、レパートリーが無い、と思っていても、実は自分が弾ける曲や楽しめる曲はあるんですね。自分が制限さえかけなければ、曲の可能性は無限にあります!
いつでも柔軟に。
参考にしていただけたら幸いです。