昨日に続いて、スウェーデンのギター(伝統音楽)の奏者Roger Tallroth(ローゲル・タルロート)のインタビュー動画の内容を紹介していきます。
昨日の記事→Roger Tallrothのインタビュー動画紹介(要約)①
インタビュー②
昨日の内容は、Rogerが初めて楽器に触れた時のことから、大学進学・卒業後についての話でした。
昨日は~4:58までだったので、今日はその続きからです。続きから再生するようになっています。
音楽的に大きかった体験ー伝統音楽の世界に足を踏み入れたこと
David(インタビュアー):ここまで、(音楽的な)バックグラウンドについて聞いてきた。
さて、ここで一つ訊ねたいのだけど、今までに特別な「アハ体験」というか、演奏や音楽的な理解における新しい方向性を見つけた経験とか、次のステージに向かうきっかけになったような出来事はあった?もしかしたらさっきの話とかぶるかもしれないけれど。
(※アハ体験…それまで気づかなかったことに気づいたり、何かにひらめいたり、それをきっかけに世界が変わって見えるような体験)
Roger:それで言うと、伝統音楽の世界に足を踏み入れたことが、私にとっては大きな変化になったかな。その時にフィドルを弾き始めたんだ。あれは1979年の夏至の日、2時15分に私はフィドルを初めて手にした。
David:夜中の2時?それとも午後の2時?(笑)
(※演奏家は夏のイベントで夜通しセッションをしたりしますし、演奏家でなくても若者は夏至の頃に夜通し起きて騒いでいたりするので、夜中に弾くというのもありえる話です)
Roger:いや、午後だった。夏至の日の午後で、他の人たちは寝ていたんだ。前日の夜にパーティーがあってね。
それで、そのパーティーの時に演奏されたフィドルが自分の目の前に置いてあったから、ちょっと試しに弾いてみたんだけど、おもしろいことにその時の自分の演奏を録音していてね。「パイヤラのストライキの歌」(Strejkvisa från Pajala)という曲を演奏したんだけど。そのカセットテープをまだ持っているから、時刻まで正確に言えるんだ(笑)
David:素晴らしい。それはぜひやるべきだね。
Roger:ええ、その時の挑戦が今も残っているよ。でもその後、約10年後に私はフィドルをほとんどやめてしまう。
David:そうなんだ。
Roger:まあでも、その頃にとにかく伝統音楽の世界にのめり込んだ。当時私は一人暮らしのために小さな家を一軒借りていて、昼夜を問わず弾いていた。同時にSalberga病院で働いてもいたので、昼に帰宅してから夜中の12時や1時頃まで弾いていた。
(※「昼に帰宅して」というのは、おそらく宿直の後か何かかなと勝手に推測しています。時短勤務ではなく正規で働いていそうなので)
伝統音楽のCD(もしくはレコード)は「すべて」買って、「全部の」曲を覚えた。そういう、「とてつもなく大きな波」に心をつかまれたようだった。とても夢中になったよ。
伝統音楽と出会う前
David:その前はどうだったの?伝統音楽と出会う前はどんな音楽を中心にやっていた?
Roger:伝統音楽に出会ったのが強烈すぎて、実はその前のことをほとんど覚えていないんだよね。
(David笑う)
まあでも私の副業的なものでいえば、初めてギグ(演奏・セッション)に行ったのは14~15歳の頃で、カール・ヨワン(Karl Johan)というアコーディオン奏者の演奏でジャズのベースを弾いたよ。
カール・ヨワン・オーケストラ(Karl Johans Orkester※本当のオケではなくてグループ名)というのは、あらゆるタイプのパーティーの演奏を請け負っていて、Gammaldans(=スウェーデンの古いダンス、ワルツなど)を弾いたりしたんだけど、3曲ごとに古い曲を弾く感じだった。たとえばSlowfox(スローフォックス※社交ダンス)や、○○(※聞き取れなかったのですが、英語の名前の社交ダンス?)のようなタイプの曲をやってから、ショッティスやハンボやPariser polka(=ポルカの一種)のような曲を弾く、みたいな。
(※Slowfoxや聞き取れなかったダンスは、おそらくスウェーデンや北欧のダンスではないと思うのですが、そういう(他の国の流行りの)ダンスを2曲弾いてから、スウェーデンのダンス曲を1曲弾く、という風に演奏していた、という意味だと思います。ここは全体期に私の知識が少なくて、聞き取りに自信がありませんが)
そこでたくさんのレパートリーを覚えた。その時もまだ楽譜は読めなかったし曲の分析はできなかったけど、ベースラインでどういう音を出したら良いかはわかったから。アコーディオン奏者から最初にメロディを教わって、その後でベースラインを組み立てていった。
そういうやり方(曲の覚え方、音楽との付き合い方、他の人との演奏の仕方)は今にも通じている。聞こえる音に合わせて弾き、それがチームになる。
楽譜の使い方
David:聞いて弾く(=gehör)ことと関連して、事前に考えていた質問があるんだけど、実際のところ「楽譜」というのは音楽家にとってどの程度(どんな風に)「実用的」だと思う?さっきの大学の話でも少し話題が出たし、他の分野、たとえばクラシックなどでは楽譜が非常に重要な役割を担っているけど。
Roger:一般的な話で言えば、「自分がこれから参加するプロジェクトの準備」として楽譜はとても実用的だと思う。
たとえば、ヴェスタノー・テアーテル(Västanå teater※伝統音楽の演奏を使うスウェーデンの劇団)で何かやるとなった時とか、まだ会ったことのない人とのリハの前とか。事前に音楽(音源・楽譜)が(メールで)送られてきたりするから、それに一般的なベースラインの方向性をメモする。私はだいたいベースラインを数字で、1~8(Ⅰ~Ⅷ)で書いたり、あとは変化のある所をマークしたり。
すでに特殊なものが指定されている場合はそれも書くけど、あとはあえてオープンにしておいて、合わせる時までに構成を覚えて、数字も頭に入れておく。
もしも他の演奏家、たとえばセバスティアン・ドゥベー(Sébastien Dubé、ベースの奏者)がベースラインを演奏する場合は、彼のベースラインも書いておく。(※「Dubéに弾いて欲しい音を書いておく」という意味だと思います)
David:もしも特殊なベースラインが欲しい場合は(=もしも彼に特殊な音を弾いて欲しい場合は)、とか、そういうことだね。
Roger:その通り。それからハーモニーも書いたりとか。もしくは、彼自身に形作ってもらう時もある。その時によってやり方は違うんだけど、会ったり一緒に弾いたりできない状況で、書類上でコミュニケーションを取り合うためには楽譜はとても便利。
David:でも、ヴェーセンでリハをする時はまた別でしょ?理論的なやり取りはあまりしない。
Roger:しないね。ヴェーセンの時はもっとリアルタイムでの流れがあるから。
(~だいたい10:50前後まで)
途中ですが、今回はここまでにしたいと思います。
続きは明日です。
ちなみに、途中に出てきた「パイヤラのストライキの歌」(労働者の歌)はこんな感じだそうです↓
また、話題に出てきたSébastien Dubéと、Rogerが演奏している動画がこちらです↓
では、また明日。