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Roger Tallrothのインタビュー動画紹介(要約)③

/ ニッケルハルパ奏者

今回もスウェーデンの伝統音楽のギター奏者Roger Tallroth(ローゲル・タルロート)のインタビュー動画の内容を紹介(要約・訳)していきます。

昨日までの記事はこちら↓

Roger Tallrothのインタビュー動画紹介(要約)①

Roger Tallrothのインタビュー動画紹介(要約)②

インタビュー内容

昨日は~10:50あたりまでで、楽譜の使い方について話をしたところでした。今回はその続きから、キリの良いところで10:34~やっていきます。

ヴェーセンの話

David:でも、ヴェーセンでリハをする時はまた別でしょ?理論的なやり取りはあまりしない。

Roger:しないね。ヴェーセンの時はもっとリアルタイムでの流れでやり取りができるし、私たちはそれぞれの役割を割と良くこなしていると思うから。

David:「割と(ganska)」?(笑)(※「割とどころじゃなく素晴らしい」の意味)

(※「ganska」は基本的には「とても」という意味なのですが、「bra」(良い)と合わさると「まあまあ、そこそこ、悪くはないけど」といった意味になります)

Roger:まず、Olovが事前にシェアしていた(自作曲の)メロディを弾いて、曲の進むがままにやってみる。

そして、私は自分の音を弾きつつも、皆で一緒に整理をしていく(不要な部分をなくしたり目的や方向性を明確にする)。

たとえば私が「私はこう思う、こう感じる」と言うと、Micke(ミッケ=Mikael Marin)がそれに合わせて入ったり、もしくは彼がアイディアを持っていて、私がそれに合わせる場合もある。

つまり共同作業なんだけど、これはリアルタイムのコミュニケーションで起きていることなんだ。

David:一緒にやってきたからこそ、それぞれの役割ができてきたということだね。Olovはメロディ、Mickeがステンマ(※メロディに絡むパート)、そしてあなたがハーモニーとかベースとか、その時にもよるとは思うけど。ただし、あなたがステンマを弾いたりする時もあるね。

Roger:そうだね。

David:でも、それぞれの基本の役割はきわめて明確だ。

Roger:その通り。そうなるように意図しているんだ。このやり方が、私たちが長年かけてはぐくんできた(耕してきた、開拓してきた)やり方だから。

David:まさにそうだろうね。

Roger:それがバンドで一緒に演奏することの強みでもあり、リアルタイムでのインプロヴィゼーションの瞬間を強力にしてくれている。たとえ事前に決めているものがあったとしても。

David:明確な役割や戦略を決めておくからこそ、その中でより自由に動ける、というのもあるね。「私はこれ以上あなたに近づきすぎないようにするけど、自分の役割の内だったらかなり色々なことができる」というような。

Roger:そうだね。他の人の陣地を踏み荒らさないというのは、時間とともに学ぶことだ。

一方で、たとえどれだけお互いをよく知っていても、相手(Micke)に「impulser」(=刺激、きっかけ)を与えることはできる。

たとえば私が「音量をここで下げると良いな」と思った場合、私はそれを事前に準備して計画していくことができる。私はメロディが音を出していない時にも弾いていることが多いから、ディミヌエンドに向けた事前の用意をしておくことができるし、クレッシェンドも同様だ。

そういうコミュニケーションが私たちの演奏を生き生きとしたものにしれくれていると思う。そういう可能性(変化させうるという可能性・自由に弾ける可能性)があるということと、それをやりたいと思えることが。

David:私もヴェーセンの演奏をライブでもCDでも聞いてきたけど、そういう好奇心(エネルギー)を感じてきた。事前に計画しアレンジされたものもありつつ、同時に、最後の最後(ライブのその瞬間)にだけ起きていると感じられるものもあり、その素晴らしいバランスだよね。

Roger:そう言ってもらえて良かった。そういう「自由さ」があることは私たちにとって大事だから。

自分の声(音)について

David:さっきの話で他の楽器(フィドル)も弾けるという話があったけど、音楽的な観点で考えた場合、「幅広く色々なことができる」(色々な楽器が弾ける)ことと、「自身の声(音)をより作り上げていく」(1つの楽器をきわめていく、自分の音色を発展させていく)ことと、今までどちらの方を大事に思ってきた?

Roger:そう言われて考えてみると、「自分の声(音)を作り上げていく」ことの方が大事だ、と私は答えるね。ただし、そのことを意識はしてこなかったと思う。

David:なるほど。

Roger:私にとって、楽器と自分との関係性はもちろろん大切。楽器は道具(手段)なのであって、目的ではないから、「どの楽器を弾くか」というのは私にとってはそれほど重要ではなく、「その楽器が私の道具(手段)となっているかどうか」の方が重要だ。そしてそれが、「自分の声(音)」になると思う。自分の声(音)というのは、ここ(※頭を指さす)にあるから。

David:あとここ(※胸を指さす)にもきっとあるね。

Roger:もちろん。だから、(自分の声・自分のやるべきことというのは)常にここ(自分の中)を出発点としているんだ。

(※「自分の見解や、イメージ・感じていることが自体が自分の声であり、楽器はそれを実現させるための手段である」という意味だと思います)

たとえば、「何を弾くべきではないか」ということに対する自分の見解もそう。静けさもまた雄弁だから。

また、聞いている人たちに対してより明確に自分の言いたいことを届けるために、この音楽をより良くする最適な方法はなんだろう、と考えることだ。私は何を強調したいのか。

こういう現在進行形の(自分の中での)対話を積み重ねていくことが、自分の声(音)になると思う。

David:その通りだね。

Roger:これは作品自体の話ではない。いや、まあそれももちろん関係はしてくるんだけど、それを生み出しているのは今、ここなのであり、「こうすべき」というものは存在しない。それよりも、私がこれを「より明確に」「よりおもしろく」そして「精神的に」(スピリチュアルに)、「どうしていきたいか?」の話だ。

David:聞いている人が「何これ、意味わかんない」「自分には理解できない」とさじを投げるような音楽ではなく、「わかる」と思わせる音楽だね。

Roger:そう。と同時に、たとえばヴェーセンの音楽は多層的であり、シンプルさと言うのもそれらの層の中にある。これは私が思っているだけではなくて、実際にフィードバックでも何度ももらったんだけど、わかりやすいメロディや明るいハーモニー、パワフルさの裏で、いかにたくさんのことが(曲の中で)起きているかを、聞いている人が突然気づく瞬間があるんだ。シンプルな動きの後ろには、常に複雑な模様もある。

(~17:10)


今回はここまでにしたいと思います。

ヴェーセンの話が中心でしたね。個人的にはあまり意外な話は無くて、「そうだろうな」と思う話が多かったです。

途中で「impuls」と出てきますが、この単語は音楽家が結構よく使う単語だと私は思っています。以前クラシックのピアニスト(スウェーデン人)の方のラジオ番組の翻訳を手伝った時があったのですが、そのピアニストの方も「impuls」という単語を何度も使っていらして、「これはなんて訳したら良いんだろう…?」と私は頭を悩ませていました。文脈によって意味も変わると思いますしね。

では、また明日。