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複数のジャンルの音楽を弾きこなしたいなら、1つのジャンルの音楽に集中するのが近道ではないかと思う。

/ ニッケルハルパ奏者

ジャンルの違う音楽→そもそも音の出し方が違う

あらためてですが、スウェーデンの民族音楽(伝統音楽、フォーク・ミュージック)は、簡単に言うと、ダンスの伴奏曲(舞曲)です。

これは例えば、polska(ポルスカ)やvals(ヴァルス(ワルツのこと))、schottis(ショッティス)などが代表的ですが、ダンスの種類ごとに曲があります。

また、結婚式の入場行進や夏至祭の行進などで演奏される音楽(marsch、gånglåtなど)や、奏者が演奏料の投げ銭をもらうために演奏した曲(skänklåt)などもあります。

それぞれの曲にリズムの特徴があり、それは楽器の演奏の仕方(音の出し方)に非常に大きな影響を与えています。

他のジャンルの音楽(例えばクラシックなど)とは、リズムが異なるだけでなく、そもそもの楽器の音の出し方自体が異なる、と捉えていいと思います。

特にフィドル(=クラシックだとヴァイオリンと言いますが)の場合は、同じ楽器を使っている分、リズムさえ変えれば両方弾けるように思えるかもしれません。

が、実際は音の出し方自体を変える必要があり、それは弦の動かし方、弦のスピードの緩急のつけ方、腕の動きなどを見ても違いがわかります。

同じ楽器を使っていても、別の楽器を演奏しているくらいの違いがあるのだろう、と私は考えています。

複数のジャンルの音楽をそれぞれ弾きこなす、とは

ではどうしたら、複数のジャンルをそれぞれそれっぽく、上手く弾きこなせるようになるのか?とも思ったりしますが、私はそれは良い意味で「無理だ」、と最近思います。

正確には「必要がない」と思います。

なぜか。

自分がそれを聴く立場だったらどうなのか、というのを考えました。

私が大好きな各ジャンルの奏者が、自分の専門分野でない音楽を演奏する時、リスナー(観客)としての私が期待するのは「その人らしいその音楽の演奏とはどんなものか?」です。

(Olovが演奏するアイリッシュとはどんなものか?Hiromiが演奏するベートーベンとはどんなものか?など)

その人が自分の得意なジャンルの奏法を殺して、これから演奏する音楽にただ100%順応するところは、あまり期待していません。

むしろそれだとがっかりしてしまうかもしれません。

その奏者の得意なジャンルの奏法、それでもってその音楽を演奏したらどうなるのか?を私は聴いてみたいです。

もちろん得意なジャンルが複数ある方もいらっしゃいますが、それでもやはり、その人が一番に自分のルーツとしているであろう音楽の片鱗は、何を演奏していてもそこかしこに感じます。

ニッケルハルパ奏者の中でも、クラシックをすごく大切に思っている人の演奏は、そのニッケルハルパの音からして、クラシックです。他の奏者と同じ製作家の楽器を使っていても、音の出し方が全然違います。

それが個性です。

聴く人はおそらくその奏者にそれを期待して聴くのだと思います。

その奏者の個性が、聴く側の感性(趣味)と合わないこともよくありますが、私はたとえ趣味が合わなくても、その人らしさが出ている演奏をとても美しいと思います。音の趣味が合わなくても、普段あまり聴くことがなくても、好きです。

また、民族音楽とかクラシックという大きなジャンルのくくりだけでなく、スウェーデンの民族音楽の中でも、地方や奏者の系列によって演奏の仕方の違いは無限に存在しています。

(例えばUppland的なものやDalarna的なものでは違いがあるし、さらにUpplandのBondpolskaの中でもSahlström系な弾き方なのか、それともCeylon Wallin系な弾き方なのかなどもあるし、また、現代の奏者の弾き方にもそれぞれ特徴がある)

そんな時に、それぞれのジャンルの音楽の感じを全く無視するのでもなく、かといって自分の普段の奏法を殺してそれっぽく演奏することだけに100%注力するのでもなく、自分の足場をしっかり固めながら別ジャンルの音楽を楽しんでいる人の演奏は、やはりすごいなあと思います。

新しい魅力を作り出している、と思います。

つまり、「それぞれの音楽をそれっぽく上手く演奏する」というカメレオン的な発想とは別の魅力を、私はリスナーとして期待しているし、実際に感じてきた、ということです。

(また、「別ジャンルの音楽を弾きこなせていないな」と他の人の演奏に対して思う時、それはその奏者の、別ジャンルへの音楽の理解が足りないと思われがちですが(実際そういう時もありますが)、その奏者が「自分の得意分野の演奏に関して、まだ突き抜け切れていない」という可能性もあります。実際、民族音楽を全然やっていないクラシックのピアノ演奏家が試しに民族音楽を演奏してみせた時に、リズムがよく出ていて、「おお、さすがだ」と私は思ったことがあるんです)

1つの音楽にいかに集中するか、がカギ

という風に考えていくと、複数のジャンルの音楽を演奏するうえで一番重要なのは、複数のジャンルの音楽それぞれをいかにそれっぽく上手く弾きこなすかということではなく、

自分が足場としている音楽を、いかに大切にするかだ、と私は思います。

もちろん練習する過程で様々な曲に挑戦するのはとても良いことだし、1つのジャンルを完璧にしてから他の音楽に挑戦するべきだ、とは全く思っていません(完璧に弾きこなすことは、一生できないから)。

ただ、色々な曲に挑戦しながらも、根本的なところに立ち返って自分の奏法をとことん見直し、弾ける曲をどこまでもしつこく弾き続けていくこと(そして弾き方を更新していくこと)が、結果的に自分の幅を広げることになるのではないかと思うのです。

弾ける曲を、より深めていくこと。

弾ける曲を、より良く弾くこと。

自分の足元にあるものを大切にすること。

得意なものをより伸ばすこと。

ワンパターンでも、しつこく、こだわり続けて突き抜けること。

色々な曲を弾いても「物足りない」と感じる人は、もしよければこの考え方を試してみてください。