スウェーデンの伝統音楽を聴いていて、テンポと音楽が微妙にずれていたり、響きがゆらいで聴こえることがあります。
私はそれを、伝統音楽の「ゆらぎ」だと感じています。
このゆらぎは、奏者によっても曲によっても様々ですが、ゆらぎがあることによって、音楽がより自然に聴こえたり、美しく、心地よく感じることができる、と私は考えています。
今回は、「伝統音楽のゆらぎ」について、私が思うことを書きます。
「テンポをゆらす」
一般的に、テンポ通りに演奏しないことを、「テンポ(音楽)をゆらす」と言うと思います。
曲の一部分だけ、テンポをちょっと遅くしたり、反対に速くしたり、など。
テンポをゆらす目的は、「音楽的な盛り上がり、もしくは落ち着きを表現したい」とか、「感情表現をするために」というのが多いかなと思います。
テンポをゆらすと、音楽により広がりが出たり、ドラマチックな展開になったりします。
伝統音楽のゆらぎ
しかし、スウェーデンの伝統音楽のゆらぎの場合は、そういう風に「テンポをゆらす」のとは少し違っている、と私は感じています。
ドラマチックさや、感情表現としてゆらすというよりも、もっと「呼吸のリズムに近いゆらぎ」、「人間の自然な動き(歩く時の微妙な浮き沈み)から生じるゆらぎ」、という気がします。
歩く、まわるの動き
これは、伝統音楽が「ダンスの音楽だから」というのが大きいかもしれません。
たとえば、歩いている時やジャンプした時、着地した後は誰でも、多かれ少なかれ身体が少しバウンドすると思います。
まわる時もそうです。自然な浮き沈みがありますね。
そんな、ちょっとしたバウンドや浮き沈みの瞬間、音楽も一緒になって、一瞬だけ「ふわっ」としているような気がします。
「音楽」というより、「響きの一部分」と言う方が合っているかもしれません。
それくらい、微妙で些細な瞬間のものですが。
これが美しいのです。
どんなにテンポが速くても、直線的に走り抜ける音楽ではなくて、多かれ少なかれ「曲線的」な音楽だと感じています。
波のようなリズム
私はこれを、「波」のようなリズムだとも思っています。
完全に機械的で規則的なリズムとも違うし、かといって、感情のおもむくままにあちらこちらに揺さぶられまくるようなものでもなくて、
自然なゆらぎを持ちながら、でもある程度予測可能な範囲内を、小さくなったり大きくなったりするものです。
機械的なリズムよりは有機的、でも感情のおもむくままのリズムよりは周期的、という感じです。
そして、微妙にゆらぎながらも、なんだかんだ拍ごとには必ずもとの場所にまた戻ってくる(足が着地するので)、と思います。
どうやって練習する?
そんな伝統音楽のゆらぎを、どうやって練習したら良いのか?ですが、私の提案はただ一つです。
「音源を聴くこと」です。
聴くと、ゆらぎがわかると思います。
ゆらぎ方自体は、奏者によってリズムもタイミングも異なっているし、楽器の響かせ方によっても変わるので、「これだけが正解」というのはありません。
ただし、自分が「良いな」と思うものはやはり「良い」し、正解だと思いますので、そういう音源のゆらぎ方を耳で覚えるととても良いです。
良いなと思う演奏を耳で覚えると、自分の演奏(を録音したもの・録画したもの)と聴き比べた時に、よりはっきりと違いが聴き分けられるようになります。
すると、自分の演奏に対して「もっとどうすれば良いのか」が自分でわかるようになります。
また、演奏中も、耳で覚えているものを「再現する」つもりで演奏すると、頭の中で弾き方を考えながら演奏する時よりも、もっと音源の演奏に近い音を出すことができます。
人の演奏をコピーする時、必ずしも弾き方等(見た目など)を完璧にコピーする必要はないと思いますが(体格などが違うので完璧には無理ですが)、「自分が良いと思う要素」は、ぜひ少しでもコピーするように心がけると、その分、自分にとって大きい収穫が得られると思います。
自分の耳に聴こえてくるものを
奏者は、自分の演奏のポイントを言葉で説明してくれる時もあります。
それがそのまま参考になれば良いのですが、言葉を介してしまうと、誤解や解釈の違いも生まれやすいです。
(それでも、機会があれば解説してもらった方が良いと思いますが)
言葉での説明は参考情報として、基本的には「自分の耳に聴こえてくる音・音楽・その音楽の良さ」を目指すようにすると良いと思います。
「音源を聴く」こと、そして音源から「自分の耳で聴こえるもの」を目指して練習することで、独特の美しいゆらぎを少しずつ身に着けることができる、と私は思っています。
以上、「伝統音楽のゆらぎについて」、今の私が思うことを書きました。
普段、伝統音楽を聴く際にも、ぜひ「ゆらぎ」という観点でも、音楽を聴いてみてください。
微妙にテンポ通りでないことに気がついたり、その「テンポ通りでないこと」自体が、音楽の心地よさを生み出していることに気がつくと思います。
ぜひ、参考にしてみてください。
お読みいただき、ありがとうございました。