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Ceylon Wallinについて

/ ニッケルハルパ奏者

20世紀のニッケルハルパ奏者で有名な人は何人もいますが、今日はその中でもCeylon Wallin(セイロン・ヴァリーン)についてご紹介します。

Ceylon Wallin

Ceylon Wallin(1922-1984、セイロン・ヴァリーン)、Karl Magnus Ceylon Wallin。

Valö(ヴァ―ルー)という、ウップランド地方の中でも海辺の地域の出身です。

(Valöのあたりに行った時に撮った写真。穏やかな所でした)

よく知られているニッケルハルパ奏者の一人で、1970年代の民族音楽ブームにおいて、さらによく知られるようになりました。

家族みんな音楽好き

フィドル・ニッケルハルパ奏者の父Albin Wallin(1891-1982、アルビン・ヴァリーン)から教わった曲をレパートリーとして持ち、フィドル奏者の弟Henry Wallin(1928-2021、ヘンリー・ヴァリーン)と一緒によく演奏していました。

父Albinは鉱山で働いていた時に事故で左腕を失い(40歳頃のこと)、それ以降はニッケルハルパなどを弾くことは難しくなりましたが、1列のアコーディオン(magdeburgerspel)を弾いたり、楽器のメロディにのせて歌詞のない歌を口ずさむことで、音楽を楽しんでいました。

(このような歌詞のない歌はtrall(トラッル)、その歌い手はtrallare(トラッラレ)と呼ばれます)

弟Henry以外にもCeylonにはたくさん兄弟姉妹がいたそうですが、それぞれに楽器を演奏したり歌を歌うなど、音楽好きの一家だったようです。

楽器は独学、楽譜は読めない

Ceylonのニッケルハルパの奏法は独学です。(本人談)

楽器をいつから始めたのかは覚えていないそうで、楽譜も読めない(読み方を習っていない)ため、耳で覚えて学んだそうです。

Ceylonの弾き方に関しては、ゆったりとした弓の使い方(ボーイングの仕方)が独特だと言われています。

 

向かって左のニッケルハルパの人です。見た目も特徴的です。

Ceylonの出身地域のあたりの、地元の演奏家たちのコンサートを一度聴いたことがあるのですが、全体的にCeylonの演奏のように、ゆったりとした演奏をしているのが印象的でした

Ceylonは、1975年にはスウェーデンの75オーレ(オーレはクローネよりも小さい通貨単位)の切手にもなりました。ニッケルハルパとともに写っています。→こちらのページで切手の写真が見られます(2022年7月15日現在)

Polska efter Båtsman Däck

ウップランド地方の曲でスウェーデンでも日本でもよく知られている曲に、「Polska efter Båtsman Däck(船乗りのデッキ伝承のポルスカ)」という曲があります。

(曲が3:08~なので、そこから再生するようになっています)

この曲はもともとはCeylonの父Albinが、船乗り(=båtsman、ボーツマン)のJohan Däck(1848-1913、ヨワン・デッキ)から教わり、それをCeylonやHenryが弾き継いだ曲だそうです。

「Polska efter Båtsman Däck(船乗りのデッキ伝承のポルスカ)」という名称の曲は、この曲以外にもいくつかあるのですが(この人が伝えたポルスカなら全部その名前になってしまうので)、そのうちの1つが、今現在これだけ有名になっている、というわけです。

曲の解釈の仕方は人それぞれでいい

このBåtsman Däckのポルスカですが、今現在よく弾かれているものですと、Ceylonが弾いているのとはまた、テンポが違っていたり、細かい音の入れ方や雰囲気が違っていたりします。

ここで、Ceylonの言葉を引用します。

”曲というのは、あまり同じように解釈されることはない。Henryも私も、父の曲を同じようには解釈しないから、私達は普段、まず私が父から教わった曲を弾き始めて、それからHenryがそこに乗っかるかたちで一緒に弾くようにしている。そしてそれらの曲は、二度と同じようにはならない(同じ曲を弾いても毎回違うものになる)”(Uppländske spelmän under 4 århundraden, p.287)

もう亡くなっている方の録音での発言や、文章を読んでいて思うのですが、民族音楽においては、全く同じ奏法がコピーのように伝承されることを必ずしも最重要視してはおらず、弾く人の内面(パーソナリティ)や時代によって変化するのが当然であり、伝統曲だけではなく、新しい曲もまたどんどん生み出されるものだ(生み出した方がよい)、という考えで演奏していた人が多いように私は感じています。(少なくともスウェーデンの場合は)

私なんかは、つい「見本としている奏者と同じように演奏するべきだ」と無意識に思ってしまうのですが、練習としてはできるだけ真似する方法もとりいれつつも、実際に演奏したり演奏を聴く時には、「人それぞれ」と柔軟に考えられた方がより楽しめるなあ、と感じています。

いくつか音源を載せますので、ぜひお聴きください。曲の部分から再生されるようになっています。

お読みいただき、ありがとうございました。

参照・引用元:”Uppländske spelmän under 4 århundraden”, Lars Erik Larsson