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伝統音楽の即興性とコミュニケーション

/ ニッケルハルパ奏者

即興性とコミュニケーションというのは、音楽にとって、とても重要なものだと思います。

今回は、このことについて書きます。

メロディをストレートに弾く中にも、即興性がある

スウェーデンの伝統音楽は、曲自体(メロディ1周分)は基本的に短く、1曲で約1分前後です。

(ものによっては長いものもあります)

このメロディを数回繰り返すことで1曲の演奏としています。

演奏の場合は、だいたい2~3回くらい、ダンスの場合は8~10回くらいとか。場合にもよりますが。

シンプルで、親しみやすい音楽です。

ジャズのように、テーマとテーマの間にアドリブ演奏の時間があるわけでもなく、

伝統的にソロ(もしくは少人数)の演奏が多かったこともあり、アレンジの趣向を凝らす以前に、基本として「メロディをストレートに弾く」のがスウェーデンの伝統音楽のオーソドックスな演奏方法になっています。

(もちろん、好みでアドリブの時間を入れたり、色々とアレンジを加えるのも、すべて自由です)

メロディをストレートに弾くことを、「芸が無い」「もっとアレンジするべきじゃないのか」と思う人もいるかもしれません。

しかし、このストレートなメロディを「どう演奏するか」が、それぞれの奏者の個性や腕の見せ所です。

決まったメロディ、皆が知っているようなメロディを、その場その場でいかに演奏するか。

同じメロディを同じテンポで弾いたとしても、昨日と今日とでは演奏が変わります。

曲は、「既にあるもの」が毎回演奏されるのではなく、演奏するたびに新しく生まれては消えていくものだからです。

その日その日の演奏に、即興性があります。

毎回変わる演奏、変化することの自然さ

同じメロディでも、持っていき方や状況によって、聴いている人や踊っている人が体験する感情はいくらでも変わってきます。

奏者側の変化だけではなくて、お客さんや踊っている人側の変化も、演奏の感じ方に大きく影響します。

また、曲のアレンジをすでに決めていて、盛り上がる部分や構成をあらかじめ決めている場合も同様です。

細かい部分のニュアンスなどは毎回変わってきますし、会場や周りの人の雰囲気に応じて音色の聴こえ方なども変わります。

そして、その方が、自然に聴こえます。

毎回同じではなく、小さくても変化している方が、より自然に聴こえてくるのです。

音楽はコミュニケーション

伝統音楽に限らず、音楽はコミュニケーションです。

事前に決めたものを決めた通りに披露するだけではなく、即興性に身をゆだねることが、演奏を彩る最後のピースになると考えています。

これは、伝統音楽に限らず、たとえばオーケストラなどの大人数の演奏でも同じです。

オケの演奏などは、整然としていていかにも「事前に決めたイメージ通り演奏している」ように見えるかもしれませんが、

実際には「今」の周りの人達(同じ楽器や別の楽器の人達、指揮者)の様子を見ながら、常に現状を判断し、音量バランスなどを調節し、その場その場で必要な音を演奏していると思います。

音楽でのコミュニケーションです。

自分自身とのコミュニケーション、お客さんとのコミュニケーション、そして演奏相手がいれば演奏相手とのコミュニケーションを通して生まれる音楽は、「その場のその空気感の中でだけ生み出された特別なもの」という感じがします。

伝統音楽においても、コミュニケーションと即興性がとても大事な役割を果たしていると思います。

その場にいること、場を共有すること

コミュニケーションと言っても、何か「明確な主張を伝え合う」必要はありません。

そういったタイプのコミュニケーションとはまた別のものを、私は考えています。

私が考えるコミュニケーションとは、とにかくまずは「その場にいること」です。

同じ空間にいるのに、自分だけ心は違うところへ行ってしまう…というのではなく、目の前の相手と同じ空間を共有します。

そして、その場の空気を感じ、周りの音を聴いたり、目の前の相手の様子を見ながら、自分のやるべきことをやり、相手に伝えます。

自分のことだけに精いっぱいになるのではなく、

かといって、周りの様子を探ることに一生懸命になって自分のことがおろそかになるのでもなく、

周りの様子を見ながら自分のやるべきことをやり、伝えます。

私が思う音楽でのコミュニケーションは、そういう感じです。

明確な主張を伝え合わなくても、これだけで充分コミュニケーションになると考えています。

コミュニケーションをとり、即興的に演奏する

自分をオープンにして、コミュニケーションをとりながら即興的に演奏することで、事前にたくさん練習した曲が、より生き生きとしてきます。

練習したものをただ披露する場としての演奏ではなく、演奏を通して、聴いてくださる方、演奏相手、自分自身とのコミュニケーションをとりながら、そのつど音楽を生み出していきます。

音も音楽も一瞬で消えてしまいますが、また何度でも違うかたちで生み出すことができます。

即興性に身をゆだねることは、怖いことでもあります。

何が起きるかわからない(かもしれない)し、自分でコントロールできない(ように思える)からです。

でもそれが良いものを生み出す秘訣であり、ここを越えることが、楽しさにつながります。

ぜひ、参考になれば幸いです。


以上、「伝統音楽の即興性とコミュニケーション」について書きました。

奏者本人がリラックスして、その場の状況に身をゆだねている演奏を聴くのが私は好きです。

そんな演奏を、私もしていきたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。