19世紀の演奏家From-Olle(フロム・オッレ)の人生を描いた劇「Ingen som jag」の解説④です。
これまでの記事↓
「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説①
「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説②
「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説③
前回までの内容
前回までで、From-Olleの誕生と成長、フィドルの演奏が素晴らしかったこと、彼がネッケン(Näcken)に演奏を教わったこと、村での生活の厳しさとその対処を歌う若者たちが描かれていました。
今回から2番目の動画(3つあるうちの)に入ります。
先にお伝えしてしまうのですが、2番目の動画は、結婚式の内容が中心になっています。
おそらく18~19世紀の「結婚式の慣習」が描かれている場面が多く、From-Olleの人生とは直接関わりがなさそうな場面もいくつかあります。
また、私が聞き取れていない部分もありますが、いつも通りできる範囲で書いていきます。
解説
※今回は動画の最初からです。
現代の演奏家の語り
演奏家:「パンと演劇、違った、パンとフィドル演奏。この2つは同じくらい大切なものだった。素晴らしい演奏家になることは、食べ物を充分に得ることにもなり、そして周りと大きく異なる存在になることでもある。…そう、おそらくは今現在とまったく同じように」
教会(結婚式会場)へ向かう人々の列を見てはしゃぐ若者たちの会話
・教会(結婚式会場)へ向かう人々の列を見て、はしゃぐ若者たち
(※当時は、結婚式に参加する人々(の一部)が、花嫁等の家から結婚式会場の教会まで列になって歩くということが、1つの慣習でもありました。また、ここでFrom父役の俳優が出ていますが、彼はここ以降は父役ではなく、ただの若者役として出演しているようです)
若者たち:「ねえ見て、あそこ!結婚式の一行だ」「すごい、きれいだね」「花嫁・花婿の2人もいる」「うまく歩いているね!(周りが笑う)いや、人じゃなくて馬のこと!」「自分たちの馬車を持っているのかな、それとも借り物の…」
(トン!という音)
若者たち:「え、どうしたの」「何かあったに違いない」「あれって、あのサーミの女じゃないの?」「彼女、あの幸せそうな人たち相手に何をしているの?」
(トン!という音)
若者たち:「何が起きたの?」「彼ら、立ち止まったよ」「あんな坂の途中で?」「トイレ休憩じゃない?(笑いながら冗談を言い合う)」「違う!あれはトイレ休憩なんかじゃない。だって全然動かないもの」「これじゃ式に遅れちゃう、司祭だって待っているのに!」「他の参列者も待っているのに!」
皆で:「なんて恥だ!」(※花嫁・花婿たちが結婚式に遅れてしまうのが)
足止めを受ける結婚式の一行と、サーミ人の女性のやりとり
・結婚式へ急ぐ村の人々と、それを邪魔するサーミ人の女性(以下、女性と書きます)。
(※私の解釈ですが、ここは「ナイフのような武器(もしかしたら呪具)を振り回して暴れる女性と、それを制止しようとするも、たびたび振り払われる村の男性たち」という場面かと思います)
女性:「これはこれは、皆さんそんなきれいな衣装を着て、いったいこれから何をするのですか?」(※とぼけた口調で)
人々:「何が目的だ、欲しいものを言ってみろ」
(急ぐ一行と、とぼける女性。こういったやりとりがしばらく続く)
女性:「いやいや、私のような者が、皆さんのような立派な人たちに何をお願いする権利がありますでしょうか」
人々:「私たちは急いでいるんだ、欲しいものを言え」「言うんだ、解放してくれ」
(女性は武器をしまう。教会の鐘が鳴る)
人々:「教会の鐘が鳴り始めた!(急がなくちゃ)」
(女性は一向に先へ通してくれない)
人々:「司祭が待っているのに」「彼女の欲しいものをとにかく与えるんだ」「言葉で言ってくれ」
女性:「ああ、かわいそうなおなかが鳴ってたまらない。おなかが叫んでる。『(ごちそうの名前をいくつも言いながら)そんなごちそうにありついたのは、もうずいぶん昔のことだなあ(ことだなあ、ことだなあ…(※セルフエコー))』と」
女性:「でもねえ皆さん、ここの皆さんはこれから結婚式だ、たくさんのごちそうが待っているんだろうね。クリームソースをかけたソーセージ(Grynkorv med gräddsås)とか…」
女性のおなか:「そう!私たちももちろん食べて良いんだよね!」
(その後も女性が結婚式のごちそうの名前を言いながら、おなかがそれに対して反応して興奮している。という、女性のひとり芝居)
女性:「ええ、ええ、(結婚式に呼んでくれるなら)ぜひお受けするんだけれども!」(=「ここを通す代わりに結婚式に呼べ」という意味)
(言いながら、女性がまた武器を構える)
人々:「彼女が来たいと言うなら許すしかないだろう。もう私たちを解放してくれ」
女性:(武器をしまいながら)「そうこなくちゃ。うちの男(※サーミ人の男性。親族?)も来るよ」
(女性が去っていこうとする)
人々:「はいはい。さあ、あの小屋まで急いで行こう!そうすれば…」
・ここで、この男性が女性を「まく」ような作戦を言う。これを聞いた女性が激怒して暴れる。「そんなことをしたら、こんな風にして結婚式をめちゃくちゃにしてやる!そんな嫌な、嫌な結婚式は、ねえ、やだろう?」と言う。
人々:「彼女が欲しいものをとにかく与えるんだ」「教会の鐘はいつまで鳴ってくれるのだろう?」「こんなに長く鳴っているとまるでお葬式みたい」
・サーミ人の男性が何か言い、女性は「私は司祭と寝るんだ」と言う。
・人々は「彼女にさからってはいけない。○○(※人の名前?)の例を知っているだろう?とにかく彼女が欲しいものをあげるしかないんだ」とあきらめる。
(不穏な空気)
結婚式へ向かう一行(5:13~)
・馬に乗り、急ぎながらも楽しげに結婚式へ向かう一行。
・若者たち:「From-Olleは花嫁に1曲ポルスカを作らなくちゃね」「そしてもう1曲を花婿に」「曲はもうできているみたいよ、この紙(楽譜)に書いてある」「紙なんてどうでもいい、曲が聞きたいんだ」「From-Olleの結婚式のポルスカが聞きたい」
・誰かの声:「誰もFrom-Olleのようには弾くことはできない」
・From-Olle「そう、誰も!」
結婚式の場面。From-OlleとKarinの出会い(6:35~)
・結婚行進の入場、祝福されるカップル、ダンスの場面
(※昔の結婚式では花嫁は「黒い衣装」を着る慣習で、頭の飾りなども重要なものでした。また、結婚行進をする際の「列の並び順」にもいくつかセオリーがあり、演奏家が一番先を歩くのも、オーソドックスな並び順の1つだったみたいです)
・From-OlleとKarinの出会い
From-Olle:「彼女は誰だろう?前にも見たことがあるけれど。とても美しい髪をしている」
Karin:「彼は足踏みをするたびに頭をこんな風にする。足も素敵。ダンスをしている時も演奏の時のように素敵なのかしら」
(From-OlleとKarinがお互いに惹かれていくようなセリフが続き、最後は見つめ合う)
・ダンスをする人たち。サーミの女性は宣言通り司祭にアプローチする。
若者たちが皆で眠るが、夜中に起こされる(9:57~)
・若者たちがベッドで眠る場面
(※ここは細かい部分は割愛しますが、当時の結婚式は「数日間」続いたので、夜は若者たちは、近くの小屋に作った特別な長いベッドで皆で寝たり、男女ペアで一緒に眠る慣習があったそうです(服は着たまま)。ここの場面でも、誰が誰と眠るかを決めています。舞台上では、ベッドの「ヘッドボード」を2人で持つことでそれを表現しています)
・突然誰かが外から呼びかける。おそらく、突然の寒さによる何かトラブルの知らせ。対処するためには縄が必要とのことで、皆でベッドを出て対処しに行く(1人だけ「なにもこんな夜中に行かなくても」と嫌がりながら)。
皆で縄を持っている場面(13:13~)
(※トラブルの内容がよくわからなかったので、この場面も何を表しているのかよくわからないのですが、皆で縄を持って何かやっていて、その間をFrom-Olleが行き来しています。しばらくしてトラブルが解決(?)したようです)
若者たち:「もう戻っても良さそうだ」「大丈夫そうだね」「なんだか不思議な感じがする」「そうだね。でも、そういうものだから」
今回はここまでにします。
さて、今回解説した場面ですが、まず前半(サーミ人の女性が村の人々を足止めする場面)はFrom-Olleとはあまり関係のなさそうな場面でした。
これは、当時の結婚式の様子(普段めったに食べられないごちそうを食べられる特別な日だった・呼ばれていない参列者も、来たら参加を許さないといけない場合もあった)や、サーミの人に対する偏見、そしてもしかしたら「サーミの人に不思議な力があった」的な、おとぎ話や神秘的な要素を盛り込んでいる内容なのかな、と思っています。
というのもこの場面、「女性1人が男性たちを何人も足止めする」というのは、現実的にはありえないので、ネッケンと同じように、もしかしたらそういう「昔話」「言い伝え」があり、その話になぞらえた構成にしているのかな?と思いました。サーミの人の信仰やシャーマニズムとの関連もあるかもしれません。
後半も、From-Olleの人生というよりは、「当時の結婚式の慣習」を盛り込んだ内容になっていて、それをお客さんに見せる意味合いが強いのかなと感じています。
最後の場面はわからないことが多くて恐縮なのですが(なのでとても意味深な場面に見える)、今後わかる時がきたら、訂正したいと思います。
次回も結婚式の話が少しだけ続いた後、From-OlleとKarinの生活、From-Olleの孤独について、焦点が当たっていきます。
では、続きはまた明日。