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「Ingen som jag」(演奏家From-Olleの劇)解説⑥

/ ニッケルハルパ奏者

19世紀の演奏家From-Olle(フロム・オッレ)の人生を描いた劇「Ingen som jag」の解説⑥です。今回で最後までいきます。

今までの記事はこちら↓

解説①解説②解説③解説④解説⑤

前回までの内容

これまでの部分で、演奏家From-Olleの結婚、妻とのすれ違い、From-Olle自身の孤独などが描かれました。

前回の最後は、村に新しい人や音楽が入ってきて、フィドル音楽が廃れていき、Olleが絶望しているような場面で終えましたね。

ここから、物語はFrom-Olleの人生の終わりに向かっていきます。

今回は、3つ目の動画(最後の動画)の内容全部を扱います。

解説

From-Olleの孤独と絶望

・暗い空間の中にいるKarinとFrom-Olle。歌う人々。

KarinとFrom-Olle:「ここにあったはずの光や日常はどこへ行ってしまったのだろう」「影が忍び寄ってくる、近づいてくる」

・地面に穴があく。その穴をのぞき込み、頭を抱えるFrom-Olle

サーミの女性による小指の話(2:10~)

・穴からサーミ人の女性と男性が出てくる。

女性:(茶化すように)「こんばんは。これはこれは、偉大な演奏家のFrom-Olleではありませんか。フィドルも持っていますね。どこかで演奏していたのでしょう。でも嬉しそうではないですね。今夜の演奏はうまくいかなかったようです」

From-Olle:「もちろんうまくいったさ。フィドルと私が友達として、近しい関係でいられる限り」

女性:「はいはい、まあわかりますよ。そして、あなたがプレッシャーを感じていることもまた、私にはわかります」

From-Olle:「彼女は鋭い」

(※おそらくFrom-Olleの演奏の技術自体が衰えているか、曲が作れなくなり、彼はそのことにプレッシャーを感じているのだと思います)

女性:「私が役に立てるかもしれません。またフィドルと近づける(自分のものにできる)かもしれませんよ」

From-Olle:「以前のように?」

女性:「そう思いますよ。新しい力を与えましょう。あなたにはそれが必要だ」

From-Olle:「どうすればいい?」

女性:「Kvarnfallet(※ネッケンの時に出てきた川)は干上がってしまいましたからね。私ならもっと良い方法を知っていますよ」

From-Olle:「…私には必要ない。家に帰らなくては。Karinが待っている」

女性:「待ちなさい。小指の話は聞いたことがあるでしょう?『共鳴箱(=楽器のボディ)の中に小指を入れておくと響きに特別な力が宿る』という。聞いたこと、あるでしょう?」

From-Olle:「まあ、聞いたことは…」

女性:「ちょうどここに1つ持っているんですよ。あそこの森の入口で死んでいた(※溺れていた?)不幸な男のものが。彼もね、演奏家でした。まあそんなに素晴らしい演奏ではなかったかもしれませんが、演奏することはできました」

From-Olle:「私にはわからない(関係ない)」

女性:「E弦をおさえていたであろうあの小指が、いったい誰のものになるのか、私は知っていますよ。3クローナでどうですか?もちろん欲しいでしょう!この中にありますよ!」

(女性が穴の中から遺体の腕を出す。男性は笑っている)

From-Olle:「やめてくれ!もう帰らなくては」(その場を去る)

(女性が遺体の小指を切り取り、高笑いしながら走り去っていく)

(※この小指の言い伝え(楽器に小指を入れておくと、演奏に不思議な力が宿る、的な)は初めて聞きましたが、ネッケンについて調べている時も、何かと小指や薬指の話題は出てきたりしていたので(生け贄として自分の小指をささげるとか)、こういう言い伝えもあったのかもしれません。かなり物騒ですが)

訪問者が信仰について説く(4:24~)

・暗い家で、椅子に座るFrom-Olle。家に訪問者(※人形)が来る。Karinが対応し、会話を交わす。

訪問者:「こんばんは、ちょっとよろしいでしょうか」

Karin:「どなたでしょうか?」

訪問者:「Jonas Svensson(ヨーナス・スヴェンソン)です。Lillsidan(※地名)の教会から来ました」

Karin:「なんのご用で?」

訪問者:「私たちは今夜、友人同士で集まる予定なのです。聖書について学ぶ予定なのですが、そのことで」

Karin:「そうですか、まあ、どうぞ」

訪問者:「お伝えしたかったのは、ただ1つ、あなたもどうぞ歓迎しますよ、ということなのです。私たちの集まりに」

Karin:「いや、どうですかね」

訪問者:「ご主人ももちろん、歓迎しますよ」

Karin:「さあ、彼がどうしたいかは、ちょっと」

訪問者:「でもフィドルは家に置いてきてください」

Karin:「楽器(演奏)に関して、Olleに何か強制させることはできません。そもそも、今夜は演奏の予定があるでしょうし」

訪問者:「わかってください。フィドルは悪魔の力がもたらしたもので、神の御言葉から人々を惑わし迷わせるものなのです。酒も、ダンスも、フィドル演奏と結びついていて、私たちを堕落させます。しかしキリストは…」

From-Olle:(震えながら立ち上がる)「しかし聖書には、私たちが歌い、演奏し、喜びに満たされるべきだと書いてある。そうではありませんか!?」

訪問者:(Karinに話し続ける)「しかし、彼(From-Olle)は演奏で家には全然いないと聞きましたよ。

イエス・キリストは、すべての人の最も近しい友人であり、迷える者たちに対して平等に救いを与えます。さあ、今夜8時に私たちは集まり、この神聖な書物を一緒に学んでいきます。そして、あたたかな愛情をもって、私たちは互いに助け合い、支え合い、人生の困難や心配、孤独に対してともに立ち向かいます…」

(この後も彼の言葉が続き、次第に他の信仰者たち(※人形)も集まってくる)

・歌(讃美歌)を歌う訪問者たち。次第にKarinも歌い始め、最後は一緒に行ってしまう。

(※ここは、以前も同時代の別の演奏家(Hultkläppen(フルトクレッペン)Lapp-Nils(ラップ・ニルス)など)の記事で書いたものと同じく、当時興っていた「キリスト教のリバイバル(信仰復興)」の場面を描いています。一部の人にとって、フィドルは「罪を生み出すもの」や、「悪魔のもの」とみなされていたそうです)

From-OlleとKarin、それぞれの独白。鶴の到来。

From-Olle:「すべてが私のもとへやってきて、そしてすべてが私から離れていった。曲も、愛も。そして日常すらも、いつの間にか私から離れていってしまったのだ」

(笛の音(=鶴の声)。劇の最初の方で「鶴が来た」と村の女性たちがはしゃいでいた時に流れていた歌(鶴の歌)が、再び歌われる)

Karin:「とてもとても昔のこと。ある秋の日、鶴たちが南へ渡るため野原に集まった時、彼らは美しい少女を見た。彼女は隣村の坂の上に、一人きりで立っていた。彼女はそこに立ち、世界を夢見ていた。鶴たちは彼女の周りに集まってきた。彼女ほど美しい少女を、彼らはそれまでに見たことが無かった」

(From-OlleがKarinの方を見る)

Karin:「すると、鶴たちは翼を広げ、彼女を持ち上げた。高く、高く。自由な空へ。彼らはそのまま飛び立ち、彼女が落ちないように翼をしっかりと敷き詰めた。

少女は自分の見たものすべてに驚き、自分の興奮を叫んだ。下にいる人間たちが彼女の叫び声を聞いておびえないように、鶴たちも一緒に鳴いた。できる限り高く、少女と彼らは声を上げた。

そして、森へ、海へ、一緒に飛んで行き、少女は世界を見ることができた。それ以来、彼女の姿を見た人はいない。

その日以来、鶴は遠くへ旅立つ時、必ず鳴くようになったという」

(歌。※歌の冒頭は「Tranan kommer(=鶴が来る)」と歌っています)

・From-Olleを見つめ、Karinは去る。

・「フィドルは悪魔の道具だ」と必死に祈り始める信仰者たち。

From-Olleの最期(14:00~)

・From-Olleの独白。サーミの女性が楽譜を持って見つめている。

(Olle、フィドルを椅子に置く)

From-Olle:「かつて、私が曲を作ると、人々は私のところへやってきて、演奏してくれないかと頼んできた。結婚式があるたびに。この村でも、隣の村々でも。

彼らはこう言った。『ああ、Olle、どうか娘たちに結婚式のポルスカを作って弾いてくれないか』と。『隣のうちの娘さんが結婚した時にも素敵な曲を弾いていたじゃないか。どうか弾いてくれ、Olle』と。

当時、私は曲を生み出すことができた。私はただ弾いていた。それ(曲)はここに、私の目の前にただ存在していた」

(Olle、フィドルを持ち上げ椅子に座る)

From-Olle:「今、私に演奏してくれと頼む人は誰もいない。そして曲もまた、もう存在していない。そういうものだ」

・「死」(白い服の女性)がFrom-Olleに近づき、彼を連れていく(15:30~)

・サーミの女性が楽譜を燃やし、「火事だ!誰か!誰か!」と叫ぶ。(音楽が始まる)

人々:「何が燃えている?」「どこで燃えている?」

サーミの女性:「燃えている、燃えている!Fromの家で燃えている!」

・火を消そうとする人々と、「死」に連れていかれるFrom-Olle。

From-Olleの葬式(19:08~)

・司祭が葬儀の言葉を述べている

・鈴を鳴らす人々

エンディング、そして現代へと時代が戻る(22:02~)

・踊る人々、様々な曲を歌う(ABBA、ロック、メタルなど、様々な時代の音楽が登場)。

・現代の演奏家が登場し、すべての音楽を止める。

・演奏家がフィドルをケースにしまっていると、フィドルを持った少年が近づいてくる。

少年:「From-Olleの曲って弾ける?」

演奏家:「何曲かは弾けるよ」

少年:「教えてもらってもいい?」

演奏家:「もちろん。ついて来て」

(2人でドアの外へ出ていく)

おわり


最期はちょっと詰め込んでしまいましたが、今回で無事に終わりまでいきました。

解説すると長かったですね。途中かなり割愛してしまいましたが、だいたいこんな感じの劇です。

少しでもお役に立てていたら良いなと思います。

(セリフは感覚的に訳している部分も多いので、一言一句同じではありませんが、参考になれば幸いです)

個人的には、サーミの男女が出てくる場面が毎回おもしろくて、やっぱりこういう登場人物は物語に必要だなと思いました。

ここでFrom-Olleが亡くなり、劇冒頭のお葬式の(埋葬されている)場面に繋がっていきます。

途中の結婚式のあたりも、わかっていない部分があったので、今後修正できたら良いなと思いつつ…それがいつになるかはわかりませんが。やりたいことの1つとして覚えておきたいと思います。

では長くなりましたが、今回も読んでいただき、ありがとうございました。