ウップランド地方で伝わるポルスカの中に、”Pintorpafrun(ピントルパフルン)”と呼ばれる曲があります。
この”Pintorpafrun”という曲と名前については、以前も少し書いたのですが、あらためてご紹介します。
曲
曲はこういう曲です。
最初の動画はキーを1音高く(in D)で弾いています。フィドルで弾いているので1音上げているそうです。
曲自体は、典型的なウップランド地方のポルスカです。
”Pintorpafrun”
Pintorpafrun(ピントルパフルン)というのは、実在した女性のこと、そしてその女性に関する言い伝えなどを指しています。
このPintorpafrunは、残忍な女城主(slottsfru、城主夫人/城の女主人)でした。城の使用人や小作人たちに暴力をふるうなど、ひどい仕打ちをしていたそうです。
また、言い伝えとして有名なので、そういう残忍な女城主のことを総称してPintropafrun(Pintropafruarna)とも言ったそうです。
曲との関連性はわからない(関連性は無いかも)
最初にお伝えしておきたいのが、曲と、このPintorpafrunという言い伝えの関連性は全くわからない、ということです。(少なくとも私はそう教わりました。諸説あるかもしれませんが…)
ですので、関連性は一切無いかもしれません。たまに、言い間違いが曲名になったり、曲を弾いた状況がそのまま曲名になったりもするので、全くの偶然かもしれません。
というのを前提として、曲とは関係なく言い伝えについて調べました。
Pinntorp(Pinnatorp)と呼ばれていた城があった
ウップランド地方のすぐ南に、Södermanland(セーデルマンランド地方/スーデルマンランド地方、もしくはSörmland(スルムランド)とも呼ばれる)という地方があります。
ここにEricsbergs slott(エリクスベリ城)というお城があるのですが、このお城が中世の間はPinntorp(もしくはPinnatorp)と呼ばれていました。
このお城が、言い伝えの起源と何か関係しているのではないかと言われています。
モデルとされている女性たち
私が調べた時に、Pintorpafrunに該当する(かもしれない)女性として名前が挙がっていたのは、こちらの2人です。
・Beata von Yxkull(1618-1667)
・fru Anna Karlsdotter(15世紀のどこか-1552)
Beata von Yxkull(1618-1667)
この女性は、夫Erik Karlsson Gyllenstierna(1602-1657)が不在の間(おそらく戦争や何かで)や、夫が亡くなった後(1657年以降)Pinntorp城の城主として城を守っていたそうです。夫が生きていた頃から、Pinntorp城のメインの建物部分を新しくしていたそうなのですが、夫の死後、彼女が城主だった頃にこの建物部分を無事完成させたということで、このお城を”Ericsbergs slott”という名前とした、と言われています。
「Pintorpafrunのモデルとなった女性」と言われているものの、彼女が言い伝えのような残忍な仕打ちをしていたという同時代の史料はどこにもなく、Pintorpafrunとの関連性を示すものも全く無いそうです。
fru Anna Karlsdotter(15世紀のどこか-1552)
この女性は、夫を1502年になくしています。未亡人として1508年にPinntorp城を買い、以降約50年にわたり力強く城や人々を牽引していったということです。
彼女もまた、Pintorpafrunとの関連性を示す(残忍だったというような)史料は一切無いそうですが、城主として(また一家の主として)は非常に行動力のある、力強い人物だったようです。
どちらの女性も、Pinntorp城の実在の女城主ではありましたが、言い伝えと直接関係があるのかどうかはよくわからないようです。
城の名前が起源という説(Pinna torpare)
そもそも実在の女性とは関係なく、Pinntorpという城の名前が、「Pinna torpare(小作人を鞭打つ)」という言葉を連想させることから、Pintorpafrunという言い伝えが言葉遊びのように生まれたのではないか、ということも言われています。
私は、これが一番しっくりくるような気がしています。
この他にも、他の国の言い伝えの影響だとか、「1600年代当時は戦争で男性が城を不在にすることが多く、結果的に女城主が多く存在し、残忍と言われるほどに厳しくしなければ城を守れなかった」等の時代状況からこの言い伝えが生まれたのではないか、とも考えられているようです。
言い伝えや詩、歌として残る
このPintorpafrunを題材とした昔話、言い伝え、詩、歌というのはいくつも残っているそうです。
私が思うに、実際にPintorpafrunがいたかどうかよりも、「実在した人物」として語られるこの言い伝え自体がとてもおもしろく、人々の興味を惹きつけてきたため、こうして今でも語り継がれているのかな、と感じています。
冒頭にあげたポルスカも、Pintorpafrunの言い伝えと関係しているのかいないのかもよくわかりませんが、この名前で呼ばれているだけで色々な想像をすることができます。
曲としてはとても楽しい曲なので、ポルスカ”Pintorpafrun”、ぜひ聴いてみてください。
お読みいただき、ありがとうございました。
参照:Wikipediaより
Pintorpafrun(https://sv.wikipedia.org/wiki/Pintorpafrun)
Beata von Yxkull(https://sv.wikipedia.org/wiki/Beata_von_Yxkull)
fru Anna Karlsdotter(https://sv.wikipedia.org/wiki/Anna_Karlsdotter_(Vinstorpa%C3%A4tten))