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“Svenska låtar”(スヴェンスカ・ロータル)ー伝統音楽の曲集

/ ニッケルハルパ奏者

これまでの記事にも何度か出てきているのですが、“Svenska låtar”(スヴェンスカ・ロータル)という、伝統音楽において非常に有名な曲集があります。

スウェーデンの伝統音楽をやっていると、誰でも一度は名前を聞いたことがあるような、そんな曲集です。

今回はこの“Svenska låtar”について紹介していきたいと思います。

Svenska låtar(スヴェンスカ・ロータル、出版年:1922-1940)

スウェーデン各地の伝統曲を地方ごとに集めた、伝統音楽の曲集です。

「Svenska låtar」の意味は「スウェーデンの曲」。

曲を集めたのはNils Andersson(ニルス・アンダーション)とOlof Andersson(オーロフ・アンダーション)です。

全部で24冊(24巻)から成り、約8000曲が収録されています。そのうち、約10%が歌の楽譜、多くは楽器で演奏される曲の楽譜であり、なかでもポルスカやワルツが多いそうです。

(圧倒的に多いのはポルスカです)

地方、地区、演奏家ごとの区別で収録

Svenska låtarは、それぞれの巻が「地方ごと」で分類されています。

さらに、その地方の中でも、「地区ごと」「その地区の演奏家ごと」に曲が並べられているので、地区や演奏家(歌い手)のレパートリーごとに曲を見ることができるのが特徴的です。

(スウェーデンの伝統曲は、「固有の曲名」があまり無いものが多く、その曲を伝えた演奏家や地域で曲を認識することが多いので、演奏家や地域ごとの区別というのは合理的です)

また、楽譜だけでなく、それぞれの演奏家の紹介や、曲のコメント、演奏家の写真なども(もしあれば)載っています。

1922年~1940年にかけて出版

一番最初に出版されたものが1922年のダーラナ地方(の1冊目)、最後に出版されたものが1940年のスコーネ地方(の4冊目)で、その間(18年間)ほとんど毎年、年によっては年に2冊出版されています。

内容一覧はこのようになっています。

  • Dalarna(ダーラナ地方、1922-1926)…4冊
  • Jämtland & Härjedalen(イェムトランド地方&ヘリエダーレン地方、1926-1927)…2冊
  • Medelpad(メーデルパッド地方、1928)…1冊
  • Hälsingland & Gästrikland(ヘルシングランド地方&イェストリークランド地方、1928-1929)…2冊
  • Värmland(ヴェルムランド地方、1930)…1冊
  • Dalsland(ダールスランド地方、1931)…1冊
  • Bohuslän & Halland(ボーヒュースレーン地方&ハランド地方、1931)…1冊
  • Västergötland(ヴェステルヨートランド地方、1932)…1冊
  • Västmanland(ヴェストマンランド地方、1933)…1冊
  • Närke(ネルケ地方、1933)…1冊
  • Uppland(ウップランド地方、1934)…1冊
  • Södermanland(セーデルマンランド地方、1934)…1冊
  • Småland & Öland & Blekinge(スモーランド地方&エーランド地方&ブレーキンゲ地方、1935)…1冊
  • Östergötland(エステルヨートランド地方、1936)…2冊
  • Skåne(スコーネ地方、1937-1940)…4冊

スウェーデンの地図と照らし合わせると、スウェーデン北部の地域全般(ラップランド地方、ノルボッテン地方、ヴェステルボッテン地方、オンゲルマンランド地方)と、ゴットランド地方が、無いことがわかります。

ゴットランド地方(Gotland)の曲集が無いのは、当時すでにAugus Fredin(アウグスト・フレーディーン/フレーディン)によるゴットランド地方の曲集(“Gotlandstoner”=ゴットランドの音)が出版されていたからだそうです。

また、北部の地域に関しては、私が留学先の講義で聞いた話によれば、「河川」の存在が大きかった、ということです。

(北部には大きな河川がいくつも流れています)

これはつまり、「あの川を越えたら、もうあっちにはポルスカ(伝統音楽)は存在していない」と思われていたそうなんですね。もちろん誤った知識(偏見)なのですが。河川が意識上の境界線になっていたそうです。

曲を集めた人たちーNils AnderssonとOlof Andersson

始まりはNils Andersson

Svenska låtarの始まりは、Folkmusikkommission(※伝統音楽保存のために働きかけていた組織/委員会、1908-1976)の書記を務めていたNils Andersson(ニルス・アンダーション)の提案により、始められました。

(※Nils Anderssonは法律家ですが、当時すでに伝統音楽の蒐集家としても有名だったようです。彼はFolkmusikkommissionの初期のけん引役でもあり、委員会の名づけも彼が行ったそうです)

時代背景

これまでも、「17分でわかるスウェーデンの伝統音楽(歴史)」の記事や、「スカンセン」の記事、演奏家「Hultkläppen」の記事でも少しだけ出てきましたが、当時(19世紀~20世紀初め)のスウェーデンは、ロマン主義の影響や、工業化の波による社会の大きな変化により、スウェーデン国内でのそれまでの(工業化以前の)「農民たちの暮らし」「伝統」「農村文化」といったものを保存しよう、という機運が一部の人々の間で高まっていました。

Svenska låtarも、その流れを背景として始められたプロジェクトだそうです。

(※当時は、同時にキリスト教の信仰復興(リバイバル)や禁酒運動などもあったので、伝統音楽に対して好意的ではない人ももちろんいました)

Olof Anderssonを誘い、2人で曲を集める

Nils Anderssonは、当時美容師(床屋)だったOlof Andersson(オーロフ・アンダーション)を誘い、2人で曲の蒐集を始めます。

(どういう経緯でOlof Anderssonを誘うことになったのかはわからないのですが)2人が最初に会ったのは1909年だそうです。

最初はNilsを手伝う形で参加していたOlofでしたが、1910年代の終わりごろには、自身も本格的に活動するようになりました。

(※2人の名字が同じですが、親戚ではありません)

1921年、Nilsが亡くなる。1922年、曲集の1巻が出版。以降1940年まで続く。

1921年、最初の曲集の出版を見届けることなく、Nilsが突然の心臓発作で亡くなってしまいます。

OlofはNilsの遺志を引き継ぎ、彼の死後も自身で曲の蒐集を続けました。(Nilsの死後、Olof AnderssonはFolkmusikkommissionに雇われることになります)

そして、1922年にはSvenska låtar第1巻(ダーラナ地方)が出版。以降、1940年の最終巻に至るまで出版が続けられました。

1人で曲の蒐集を続けたOlofでしたが、曲集にはすべて、Nils Anderssonの名前とOlof Anderssonの名前が両方書かれて出版されました。

Svenska låtarの出版を終えた後も、Olofは伝統音楽の記録・保存や、伝統音楽に関わる研究や活動をし続けていたそうです。

今はインターネットで公開されている

Svenska låtarに収録されている楽譜も含め、多くの曲の楽譜(手書きの原稿)が「Folkmusikkommission」や「Svenskt visarkiv」によるデータベースから、ネット上で誰でも見ることができます。

…と言いつつ、私は全然使いこなしていないのですが、興味のある方はぜひ見てみてください。英語版もあります。

Folkmusikkommissions notsamling och Musikmuseets spelmansböcker(スウェーデン語)

Folkmusikkommissions notsamling och Musikmuseets spelmansböcker(英語)

Svenskt visarkivの該当ページ(スウェーデン語)

Svenskt visarkivの該当ページ(英語)

参考

今回参考にしたページです。

Wikipedia「Svenska låtar」(スウェーデン語)

Wikipedia「Nils Andersson」(スウェーデン語)

Nils Andersson(スウェーデン語)

Wikipedia「Olof Andersson」(スウェーデン語)

Wikipedia「Folkmusikkommissionen」(スウェーデン語)

Wikipedia「August Fredin」(スウェーデン語)


今回は、Svenska låtarという曲集について、ご紹介しました。

毎回同じようなことを書いていますが、このSvenska låtarに関しても、私は「わかっているような、でもよくわかっていないような…」という曖昧な感じだったので、今回こうして少しでも調べて情報を整理することができて良かったです。楽しかったです。

(一覧の情報など、何か書き間違いなどがあったらすみません)

参考にしていただけましたら幸いです。