私は普段、「楽器の練習は、『三歩進んで二歩さがる』だ」と思っています。
結果的には一歩進んでいるのですが、「着実に一歩ずつ進んでいる」というよりも、「ぐるぐるしてさまよいながら結果的に進んでいる」という感じです。
ぐるぐるしてさまようのは、普通に考えれば非効率的で、本人にとっても「進んでいない」感覚に陥ることがありますが、そうしてさまようことで経験できることがあります。
それは、「たくさんの失敗」です。
失敗を経験し、失敗から学べば学ぶほど、成功(目標)に近づきます。
今回はこのことについて、書きます。
今自分がやっていることが、無駄に思える時もある
以前、「目的や今の自分の状況によって、練習方法は変化する」ということを書きました。
目的によって練習方法(内容)を変える、練習方法にバリエーションを持たせる
私は、昨日と今日とで真逆の練習をすることがよくあります。
たとえば、「拍をしっかり意識して弾く練習」をしていたその翌日に、今度は「拍通りに弾かない(あえて少しずらす)練習」をひたすらやったり。
響きを聴いてコントロールする練習をした後で、今度はコントロールの外に飛び出す練習をする、などもそうです。
昨日は○○という方向性で練習して、「いけた!」と思ったのに、今日は××が気になって、××の練習をやって…。
ということを繰り返していると、自分で掘った穴を自分で埋めている(=拷問の一種)ような感覚になり、「自分はいったい何をやっているんだ?」という気持ちになることも、結構よくあります。
「昨日やった練習はもしかして無駄だったのか?」とか、「昨日までのやり方は間違っていたのか?」とか。
無駄な練習は無いし、間違ったやり方というのも特に無いのですが、焦ると、つい近道を行きたくなります。
でも、近道はありません。
色々な道を行ったり来たりして、うろうろしながら自分で道を見つけていくしかありません。
「こっちの道はだめだ」「こっちも道もだめだ」というように。
失敗を学ぶ
私はこれを、「失敗を学ぶこと」だと考えています。
失敗例のストックを自分の中に積み上げていきます。
「失敗」と言っても、人によってその内容は違う(失敗の基準は違う)と思いますが、ここではあまり深刻に考えずに、「練習中や準備中、自分の中でしっくりこないもの=練習中の失敗」というような感じで考えています。
本番など、ここぞという時に良いものが演奏できるように、普段の練習中は失敗例をたくさん作ります。
自分の弾き方や、考え方、準備の仕方の失敗例。
他にも、動画を撮る時や録音する時や、言葉で何かを説明する時、人とコミュニケーションをとる時の、失敗例。
それらの失敗を修正しようとする時の、さらなる失敗例など。
失敗経験を重ねれば重ねるほど、多くのことを学ぶことができます。
無理にポジティブに解釈しなくていい
私は以前は、こういう失敗(自分の中での失敗)を、無理に「ポジティブに解釈しよう」としていた時期がありました。
これは失敗ではない、良い結果に目を向けよう、と。
そういう考え方ももちろん大事なのですが、無理にやりすぎると、ストレスがたまることに気がつきました。
自分の中でしっくりこないものは、やはりしっくりこないのです。
自分の中で「失敗した」と思うことは、無理に「いや、あれは成功だった」と思うよりも、その失敗を認め、失敗から何かを学んだ方が、今の自分の糧になると思いました。
失敗すればするほど、良い
どうすると失敗しやすいのか、わかるようになる
失敗を重ね、失敗経験をたくさん積めば積むほど、「どうすると失敗しやすいのか」がわかるようになります。
これは裏を返せば、「どうすれば成功に近づけるか(目標に近づけるか)」がわかること、成功への道のりが明確になることでもあります。
「こっちの道に行ったらダメだ」というのがわかるだけでも、大きな学びです。
演奏で言えば、同じ音を何度も間違えることで「ここは音を間違えやすいのだ」と知ることができるし、自分の癖や改善点を知ることで、より良い演奏に近づくことができます。
リスクの可能性に敏感になる
また、失敗の経験を重ねれば重ねるほど、「リスクの可能性」にも敏感に気がつくことができるようになります。
「この前、同じような道でこういうことがあったから、念のため気をつけよう」というように。
これもまた、大きな財産です。
リスクの可能性がわかれば、あらかじめ対策もとれるし、実際に失敗しても大きな痛手を負わずにすみます。
失敗を積み重ねれば積み重ねるほど、成功に近づくし、トラブルがあってもはやく軌道修正できるようになります。
さきほど、「近道はない」と書きましたが、しいて言えば、うろうろしてぐるぐるして、さまよって、失敗を経験して引き返して…というのが、おそらく一番の近道です。
それは全くもって近道には見えないし、本人には「進んでいる」とは思えないかもしれませんが。
失敗しても楽器は爆発しない
演奏中、「音を間違える」ことを、まるで楽器が爆発してしまうかのように恐れている人がいます。私もそうでした。
でも、大丈夫です。
ソを弾くはずのところでラを弾いても、おそらく、恐れていることは何も起きません。
音を間違えても、だいたいは「高い音」か「低い音」が出るだけですから。
それも、たいてい半音か1音か1オクターブくらいの違いですから、大きな問題ではありません。
音の間違いに限らず、何を失敗しても、楽器は爆発しないし、自分の命は安全です。
(聴いている人は「あ、間違えた」と思うかもしれませんが、すぐに忘れるし、誰だって間違えます)
最初から「失敗しよう」と思う必要はありませんが、失敗を恐れる必要もありません。
「失敗しても、成功しても、学べることがたくさんあるのだ」と思って、自分なりの練習や演奏をすると良いと思っています。
そして、失敗を恐れようが恐れまいが、とりあえず何かしら行動すれば、それだけでも実は成功(目標)に近づきます。
近づいている時ほど、あまり自覚は無いかもしれませんが、しばらく経ってから気がつきます。
「あ、もしかして良くなっているかも」と。
以上、「三歩進んで二歩さがる。うろうろし、失敗することの大切さ」について書きました。
ぜひ、参考にしていただけたら嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました。