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2013年春、ブレーキンゲの学校に申し込んだ。

/ ニッケルハルパ奏者

教育実習なども終え、卒論も書き(私の好きな『家守綺譚』を、身体論というテーマで無理やり書きました。論じ方は無理やりだったけど楽しかった)、大学を卒業を控えた私は、またスウェーデンに行くためにブレーキンゲ国民高等学校演劇学科への申し込みをしました。

その時は就活をしていない自分がダメにも思えましたが、また振り出しに戻りたくないという気持ちがありました。「振り出しに戻る」というのがどういう意味なのかは自分でもよくわかりませんでしたが、やりたいことに挑戦させてもらえるならやるべきだという思いは確実にありました。

国民高等学校というのはスウェーデン語で「folkhögskola」と言います。例えるなら、日本で言う専門学校のようなものです。ただし、国民高等学校では外国人(スウェーデン以外の国の人)も学費がかかりません(今後変わる可能性もありますが)。また、補助が出ているせいか、電気代やインターネット代・光熱費・寮費に平日の朝ごはんと昼ご飯とおやつがついて、月6~8万円ほどしかかかりません(自分で用意するのは平日の夕ご飯と休日のご飯)。

国民高等学校はスウェーデン各地に存在しており、多くは田舎にあります。寮があるところが多く、大学よりもかなり小規模です。各学校に必ずあるのが普通科と呼ばれる学科で、高校で学ぶ内容と同じような科目を履修することができます。そして普通科に加えて各学校でそれぞれ用意している学科があります。音楽や手芸、アウトドア(ガイドになるための知識と訓練)などなど。座学よりも実践的な内容を含む学科が多い印象です。

通っている生徒の年齢層は比較的若めで20歳代が多い気がしますが、40代以上の方ももちろんいらっしゃいますし、いても全然おかしくないのがスウェーデンです。人は何歳からでも学ぶことができる。学ぶ権利がある。


私がブレーキンゲ国民高等学校の演劇学科に申し込もうと決めたのは、結構早い段階だった気がします。あまり覚えていないのですが、ルンドの留学生活が終わる頃から実は考えていたような気もします。

演劇にはもともと興味があって、よく親と観に行っていました。私が演劇に興味を持つようになったきっかけは、おそらく中学・高校生時代によく読んでいた恩田陸の本の影響です(早稲田の教育学部国語国文学科に入学したのも、実は恩田陸と荻原規子の影響もありました)『六番目の小夜子』に始まり、『三月は深き紅の淵を』『麦の海に沈む果実』『木曜組曲』『ロミオとロミオは永遠に』『象と耳鳴り』『図書室の海』『Q&A』『チョコレートコスモス』…。チョコレートコスモスなんて、もろに演劇の話なので読んでいてすごくおもしろかったです。その他の本も。あと『猫と針』(という、キャラメルボックスにあてて恩田陸が脚本を書いたお芝居)はちゃんとお芝居を観に行きました(その後、通っていた大学の学生会館の塀に「犬と串」という劇団か何かの看板が出ていて、「これ恩田陸のパロディかな?」と思って眺めていた記憶があります)。恩田陸の本には演劇関係の話や一場面がよく出てくるので、自然と興味が湧いてしまうんです。しかも結構な割合で、作品の中で重要な局面に演劇が出てくる…ドキドキさせられます。自分が自分以外の誰かになれる、ってきっと誰もが一度は憧れるのではないかと思います。

(私は翻訳ものが苦手なのですが、恩田陸の影響で『レベッカ』や「サキ」も読んだし、普段は映画を観ないのにヒッチコックの『裏窓』も観た。おもしろかった)

演劇、私もやってみたかったけど、演劇というとまず集客とか芸能界への道とか、そういうものと結びついているイメージがあって挑戦する機会はありませんでした。挑戦しようとも思わなかったような…。でもそういうしがらみさえ無ければ、演劇自体はきっと楽しいんだろうなと思っていました。

ルンドにいた時、私はちょうど同じ時期に留学していた別の日本人の女性のブログを読んでいて、その人が国民高等学校に行っていたんです。それで国民高等学校のことを知って、色々調べ始めました。何を学ぼうか、どこの学校に行こうか。

その時はまだサークルのことが頭から離れなかったので、音楽をやる気にはなれなくて(自分には音楽は無理なのだと諦めて、最初から気持ちに蓋をした)。手芸も人気のコースなのですが、私は手芸はあまり…で笑(苦手という以前にやる気がなくて)。アウトドアとかも全然興味ないし(虫が苦手、インドア派)。革製品の加工や製本のコースなどもありましたが、職人技みたいなのも辛抱強さが足りないし、そこまでやりたいことでもありませんでした。演劇は興味があったけど、スウェーデン語ができない私、しかも演劇経験のない私が入れる学校なんて。

あ、ある。

という感じで、色々な学校と学科を見ているうちにブレーキンゲ国民高等学校の演劇学科に行きつきました。オーディションをする他の学校は、やはりそれなりに求める生徒像みたいなのが書いてありましたが、ブレーキンゲの学科紹介文はとにかく温かかった。「演劇は人と人とが出逢う場所」「自分と相手がともに成長する場所」などなど…。こういうところで演劇を勉強したら、何をするんだろう。何を学ぶことができるんだろう。私はどう成長できるんだろう。と、とても興味を持ちました。

その学校に行った後に何をするのか、どうなりたいのかはわかりませんでした。でもスウェーデン語の勉強にはなると思いましたし、人間的に成長できるような気はしました(漠然としている)。

私はとにかく色々なことを経験したかった。自分の頭でちゃんと考えられる人になりたかった。

無鉄砲かもしれませんが、私は当時ブレーキンゲの学校以外には申し込みませんでした。定員オーバーで落ちたらどうするつもりだったのか。そもそも定員オーバーするほど人気じゃないだろうと踏んでいたのか笑。ただ、今思い返してみると、その頃の私は「何がなんでも掴みにいくぜ!」という気力はあまり持っておらず、「時の流れに身を任せ~」状態でした。何かに必死になるのがやっぱりまだ怖かった。断られたら断られたでしょうがない、くらいの感じでした。

2013年の3月頃に申し込み、5月には入学許可が出ていたと思います。そこから居住許可の申請をして、飛行機のチケットを取りました。東京のスウェーデン語の授業で一緒だった友人も同じ学校に行くことが決まり、飛行機のチケットはその友人と一緒に取りました。

その後留学に行くまでの半年間(8月まで)はアルバイトをしました。

そして私はスウェーデンに再び旅立つことになりました。

今日もお読みいただきありがとうございます!