今回は、ニッケルハルパを弾いている時の「雑音」について書きます。
雑音は、楽器の構造上、気温の変化やタイミングの関係である程度は出てしまいます。
なるべくおさえつつも、最終的にはあまり気にしなくて良いと思います。
本人がどれだけ気を使っていても、出てしまう時は出てしまいますし、それは有名な奏者でも一緒です。私が大好きな奏者のCDにも、共鳴弦Eの雑音が入っています。
そもそも、こういう音を「雑音」と書いてしまって良いのかどうかも私にはよくわかりません。
これって雑音なのか?という哲学的な疑問も出そうです。
とりあえず、メンテナンス不足というよりは、楽器の構造上の原因であることが多いので、他人が雑音を出していてもあまり指摘しない方が良いかなと思います。具体的な解決策の提案があるなら別ですが。本人も悩んでいるかもしれないので。
せっかくなので、どんな原因があるか書いてみたいと思います。
①共鳴弦がタンジェントに当たる
「共鳴弦がタンジェントに当たってしまって雑音がする」というパターンはかなり多いのではないかと思います。
たとえば、こちらの写真はニッケルハルパの解説ページで使っているものです。
タンジェントはこの木の杭のようなもので、これらの上にはメロディ弦(太い演奏弦)が張られていますが、下には共鳴弦がありますよね。
この、「タンジェントの下の位置に張られている共鳴弦」が、共鳴した時に大きくふれて、タンジェント(木)に当たってしまって「スーン」という音がします。
スウェーデンで推奨されている共鳴弦のチューニングだと、一番の上の共鳴弦がG♯で、そこから半音ずつ下がっていくチューニングになりますが、そうするとたいてい、この雑音が出がちな共鳴弦が「C」と「E」に当たります。
CもEもニッケルハルパ的にはとてもよく使う音なので、いちいちこの「スーン」が入ると嫌だなと思う奏者もいるかもしれません。
対策:タンジェントを削る
一応対策としては、「タンジェントを少し削る」という対策がとられています。
こちらも解説ページで使っている写真をそのまま使います。写真の文字は無視していただければと思います。
文字と△は無視していただいて、真ん中の列の一番左のタンジェントをご覧いただくと、少し丸く削られているのが見えると思います。
これが「共鳴弦がタンジェントに当たる」問題の対策として削られている部分です。
こんな風に、共鳴弦が当たりそうな部分を少し削ることで、共鳴弦とタンジェントが当たって音が鳴るのを防ぐようにしています。
さらに私がやっている対策:共鳴弦のチューニングを変える
タンジェントを少し削るとかなり改善はされますが、完全に雑音が消えるわけでもありません。どうしても当たってしまう時があるんですね。
ここからは私がやっていることを書きます。
私は、以前はCとEで雑音が鳴るのはあまり気にしていませんでした。
が、やっぱりだんだんと気になってきて、次第に「雑音が出ないようにCとEを弱めに弾く」ようになってしまい、ちょっと嫌だなと思うようになりました。
CもEも、特にのびのび弾きたい音の1つなんです。
なので、共鳴弦のチューニングの順番をここだけ変えることにしました。
順番自体は今でもたまに変えたりしているので、具体的にはここには書かないでおきますが、「CやEよりも使う頻度の少ない音(でもなるべく近い音)と交換している」ような感じです。
さらに、私の楽器は共鳴弦が一つだけちょっと響きが変というか、インドかどこかの楽器みたいに「ういーん」と響いてしまうものがあるので、そこも、あまり使わない音の共鳴弦としてあてがって使っています。
もちろん、全く使わない音というのは存在しないので、たまに使う時は少し気を使って出すようにしています。メロディの音としては使わなくても、和音になった時に自然と共鳴したりはするので、そういう時はしょうがないかな、と受け入れています。
②チューニングのずれによる雑音
私の場合、よくあるのが
控室と本番の部屋の気温差でチューニングがずれて雑音がする
というものです。
せっかく控室でチューニングをしても、本番の部屋の方があたたかくてたちまちチューニングがずれたり、冷房や暖房の風が直に当たってチューニングがずれたりして、雑音が出ることがよくあります。
対策:チューニングをする/受け入れる
対策としては、本番中にチューニングをするか、その状況を受け入れる、です。
チューニングができるような状況ならチューニングをしますが、本番に出て、曲を弾き始めたところで雑音に気がついたとしたら、もうそのまま弾きます。
明らかにチューニングがずれていて曲が弾けない状態だったら、曲を止めるのもありだと思いますが、できれば曲は止めたくないです。
また、短時間しか弾かない場合、16本の弦すべてを人前でチューニングするのもあれなので、メロディ弦だけチューニングするとか。
これは人によって考え方が違うと思うので、本番中に何度もチューニングをするのも全然良いと思います。むしろやった方が良い状況もあると思うので(すごく暑い部屋、とか、何人かで弾いているとか)、状況に応じて臨機応変に、と思います。
③よくわからない雑音
雑音って、おそらくどの楽器もしますし、どこから雑音がするのかもよくわからない場合も多いみたいです。
私の楽器だと、メロディ弦のチューニングをする所の付近からすることが多いような気がします。
写真だと、弦が繋がっているところの、黒いねじが4本あるあたりです。
この辺、色々と細々ついているので、弦の振動に引っ張られて音がするのかもしれません。
対策:フェルトのようなものをはさむ?
今年に入ってから気がついたのですが、奏者によっては、楽器にフェルトのようなものをはさんで対策しているようです。
(これはご本人に訊いた情報ではなく、動画を見て推測しているだけなので、違っていたらすみません)
はさむ場合は、楽器の駒よりも左側(奏者からすると右側)にはさむみたいです。右側にはさむと音に影響してしまうので。
駒はこちらの〇の部分です。
たとえば、昨日動画のリンクを貼ったJosefina、黒いものを弦にはさんでいます。再生位置を38:34にしましたが、ここから見るとよく見えると思います。
オタクのようにJosefinaの動画を見あさると、このフェルトみたいなものの位置も随時移動しているので、色々と研究されているのかなと思います。
他にも、Magnus Holmströmという奏者も音が強いので、雑音対策で何かをしているとDavid(留学先の先生でMagnusの友達)から聞いた気がするのですが、当時あまり理解できなくて忘れてしまいました、すみません。何かをどこかの裏側に貼っている、と言っていた気がするのですが、この情報だと全然参考にならないですね。
ということで、雑音の原因と対策について、ご紹介しました。
おまけ:Väsen duoの動画
さて、「雑音対策どうしてるのかな?」と思って動画を見ている最中、Väsen duo(という有名な二人)の動画が出てきたのですが、2人(デュオ)になってからの心境の変化など、本人たちに色々とインタビューをしていておもしろいなと思ったので、忘れないようにリンクを貼っておきます。
スウェーデン語なのですが。
ちなみに、1996年の若かりし頃のインタビュー映像を見ながら、本人たちがこらえきれず笑っている場面もあり、日本のTV番組みたいだなと思いました。ちょうどこの辺りですが。
私も、スウェーデン語で何を言っているのかは半分くらいしかわかっていませんが、「有名になってどう思う?」と聞かれて、「まあ、自分たちが上手いってことなのかな」とミッケが答えていたり、「海外でニッケルハルパを弾くと注目を浴びるでしょ?」と聞かれて「足が5本ある犬を見たみたいなリアクションをされるよ」とOlovが答えています。(と思います)
こういうのを見ると、「過去の自分の映像を見て笑うリアクションって、どこの国でも共通なんだな~」と和やかに思います。こういうリラックスした雰囲気が好きです。Olovに至っては寝ぐせがついています。
以上、「雑音について」でした。
私がご紹介したもの以外にも、原因や対策があるかと思います。
ただ、最初に書いたように、「これって雑音なのか?」という問いは私の中に常にあります。
雑音のような音をあえて使う奏法もあるし、また、ニッケルハルパやスウェーデンに限らなければ、演奏中うめき声を出す演奏家などもいますよね。
そういう音や声を全部とっぱらうのが一番の解決策、というわけでも無いのかも、と思います。
お読みいただき、ありがとうございました。