紹介したいコンサートがたくさんあるので、また和訳をしていきたいと思います。
今回からしばらくは、2022年5月にBror Hjorths Husで行われた「Bingsjölåtar i Uppland(Upplandで伝わるBingsjöの曲)」のコンサートです。
演奏はErika Lindgren Liljenstolpe、Robert Larsson、Örjan Englundの3人です。
演奏者・コンサートについて
私がよく訳している、Bror Hjorths Husでのコンサートです。
Bror Hjorths Husは伝統音楽が大好きな芸術家Bror Hjorthの元アトリエで、現在はミュージアムとして公開されていて、コンサートもよく開かれています。
画面の後ろに見える個性的な絵や彫刻はすべてBror Hjorthの作品(もしくは、そのレプリカ/ミニチュア)です。
過去に訳したコンサート→Duo Cavez / Paulsonのコンサート、日本語訳①、「Olov Johansson ソロコンサート」(2021)の日本語訳①、「Väsen Duo i Bror Hjorths Hus」(2021)コンサートの日本語訳①
演奏者
演奏しているのは、フィドル奏者のErika Lindgren Liljenstolpe(エリーカ・リンドグレン・リリエンストルペ)、フィドル奏者のRobert Larsson(ローベルト・ラーション)、アコーディオン(キーボード)奏者のÖrjan Englund(ウリヤン・エングルンド)です。
(Örjanはウリヤンと書きましたが、ウリヤン/エリヤン/オリヤンの中間くらいの発音だと思います)
概要
コンサートの主旨はコンサートの中で説明されますが、私の方からも簡単に説明します。
ダーラナ地方のBingsjö(ビングフェー)という地域の曲が、奏者の移住とともにウップランド地方にも伝わってきました。伝えたのは主にHjort Anders(ヨット・アンダーシュ)という、Bingsjö出身のフィドル奏者です。
彼が伝えた曲はウップランド地方の他のフィドル奏者(彼の弟子たち)へと伝わっていき、それらはウップランド地方独自の伝統として残っていきます。すなわち、Bingsjö的な要素を持つ曲でありながら、一方でまたウップランド的な要素も加えられた演奏として。
で、Hjort Andersの弟子であったViksta-Lasse(ヴィークスタ・ラッセ)というウップランド地方の演奏家や、彼の周辺の演奏家たちから曲を教わった、若い(現代の)世代の演奏家の一部が、今回コンサートで演奏するErika、Robert、Örjanになります。
そんな3人が、今回「Bingsjölåtar(Bingsjöの曲)」と題して、ウップランドに伝わっているBingsjöの曲を演奏します。
というのがコンサートの主旨です(というか、私もまだ動画を全部見ていないのでわかりませんが、だいたいこんな感じだと思います)。
ちなみに、Viksta-Lasseは有名なフィドル奏者で、演奏するRobertのおじいさんがViksta-Lasseの兄弟です。そのViksta-Lasseの兄弟の息子さんがBosse Larssonで、Bosseも有名なフィドル奏者です。BosseはRobertの父であり、Viksta-Lasseの甥です。そんなBosseと、ErikaやÖrjanも親しく、今回演奏する3人の中心にはBosseがいて、さらにViksta-Lasseもいる、という関係性です。たぶんこの説明だとよくわからないと思いますが、大丈夫です。私も書いていて意味がわからなくなりそうでした。
とりあえずBosse やViksta-Lasseを中心に繋がっているんだな、と思っていただければ大丈夫です。
そして私はいつも通り、勝手にMCを訳していきますが、間違えて訳しているところもあるかもしれません。先に、すみませんと謝っておきたいと思います。ゆるく参考にしていただき、コンサートを楽しんでいただけたら嬉しいです。
動画
動画はこちらです。
何回も訳しているうちに、この司会の彼がMattias(マティアス)という名前だということが判明したので、Mattiasで書きます。司会の人にも名前がありますからね。
そして今回はMattiasも大事なことを言っているので(いつもは言っていないという意味ではありませんが)、訳を飛ばさずに、最初から訳します。
リンク先はYouTubeの該当箇所が別ウィンドウで開きます。※は私の注釈です。
(司会のMattias):こんにちは。皆さん、芸術家Bror HjorthのアトリエであるここBror Hjorths Husへ、ようこそ。
今夜のコンサートは「Bingsjölåtar i Uppland(ウップランド地方で伝わるビングフェーの曲)」です。
皆さんに今夜お聴きいただく曲の多くは、伝説的なフィドル奏者Hjort Anders(ヨット・アンダーシュ)を通じて、ウップランド地方に伝えられた曲です。
Hjort Andersといえば、芸術家Bror Hjorthが、すべての演奏家の中で「最も尊敬していた(憧れを抱いた)演奏家」です。
また、Hjort AndersはBror Hjorthの一家(家族)の親しい友人でもありました。
さらに言えば、Bror Hjorthの息子Ole Hjorthの(フィドルの)先生でもありました。
そしてもう一人、Hjort Andersが羽ばたくための翼を与え、たくさん一緒に演奏した演奏家がいます。
それはViksta-Lasse(ヴィークスタ・ラッセ)です。
そのViksta-Lasseが一緒にたくさん演奏したのが、Bosse Larsson(ボッセ・ラーション)でした。
Bosse Larssonに関して、とても残念なことですがお伝えしなければいけないのは、彼はつい最近亡くなったということです。
ですので今日は、Bosseのこと、彼の音楽により一層思いを馳せながら、コンサートをお送りしたいと思います。
Bosseは今夜の演奏家の1人の、お父さんにあたります。
ここ、アトリエにお越しの皆さま、どうぞ盛大なあたたかい拍手でお迎えください。
Robert Larsson、Örjan Englund、Erika Lindgren Liljenstolpeです。
(拍手、3人が入ってくる)
(Robert):ありがとうございます。
演奏の後にも、同じくらいたくさんの拍手をいただけると良いのですが(笑いが起きる)(※→それくらい素晴らしい演奏をお届けできますように、の意味)
Mattiasのお話にあったように、私たちは今夜、ウップランド地方で伝わるBingsjöの曲を演奏します。
父(Bosse)が持っていた録音の中から、ある「Vallåt(ヴァルロート、家畜を呼ぶ歌)」を見つけました。
Hjort Andersが演奏していたものです。
Hjort Anders自身は母親から受け継いだ曲だそうです。
その曲から始めて、次にポルスカにつなげたいと思います。
そのポルスカは、Viksta-Lasseが初めてHjort Andersから教わった曲だそうです。
①(2:22~)Vallåt efter Hjort Anders(Hjort Anders伝承のvallåt)&(4:17~)G-moll polska efter Hjort Anders(Hjort Anders伝承のGマイナーのポルスカ)
(6:28~)
(Erika):ありがとうございます。
今演奏しましたポルスカは、「G-moll polskan(Gマイナーのポルスカ)」と呼ばれていますが、Viksta-Lasseの最初の「宿題」と言えますかね、彼がHjort Andersと初めて会った時にもらった課題曲です。
初めて出会った時というのは、ウプサラ(Uppsala、ウップランド地方の中心地)で行われた、演奏家のコンテスト(Spelmanstävling)でのことだそうですが。1909年のことだったと思います。
その時、Viksta-LasseはHjort Andersの家に招かれたそうです。なぜなら、Hjort AndersはViksta-Lasseの演奏にとても感銘を受けたから。
Viksta-Lasseは当時まだ13~14歳でした。
Hjort Andersは「この少年を自分の生徒にして、演奏を教えたい」と思ったんですね。
そして、今演奏したうちの2番目の曲が、Viksta-Lasseが最初に教わった曲です。
「これが最初の曲…??」と私ならつい思ってしまいますが…。
(笑いが起きる。※とても最初の曲とは思えない難易度の曲だから)
でも、次に演奏する曲も負けていません。
次の曲は、Viksta-Lasseが初めて作った曲です。同じくらいの年齢の頃(※13~14歳頃)に。
そしておそらく、この曲はViksta-Lasseの曲の中でも最もよく知られる曲の1つでしょう。
「Eklundapolskan nr. 1(エークルンダポルスカ1番)」です。
彼がこの曲を思いついた時は、Hjort Andersからもらった宿題、ボーイングについての重要な練習に取り組んでいたところでした。
Robert、実演できる?
Viksta-Lasseは一晩中練習していたそうです。
腕はあまり動かさずに(固定して)、手首の練習です。ちょっとやってみて。
(Robert、7:44~から実演)
(Robert):∞、8の字のように動かします。
(Erika):その通り。そして、この曲が出来上がりました。
②(8:00~)「Eklundapolska nr.1」 av Viksta-Lasse(「エークルンダポルスカ1番」Viksta-Lasse作曲)
(10:37~)
(Erika):ありがとうございます。
そのウプサラで行われた演奏家のコンテスト、彼ら2人が出会った場所で、Hjort Andersは素晴らしく美しい曲を演奏しました。
Bingsjöの曲です。
その曲はコンテストの後で(コンテストの結果にちなんで)「Prispolskan(プリースポルスカン、賞の曲)」と名付けられました。
その曲を次に演奏したいと思います。
(今演奏してきた曲と)同じようなスタイルの曲が続きます。
Bingsjöの多くの曲は、だいたいが16-delspolskor(16分音符ポルスカ)になります。素早く転がっていくような曲です。
※参考:16-delspolskaについて→16-delspolska、8-delspolska、Triolpolskaについて(その1)リズムによる分類/ダンスの分類の違いと、それぞれの解説
③(11:12~)“Prispolskan”(Polska från Bingsjö, efter Hjort Anders)プリースポルスカン(Bingsjöの伝統曲)
続きはまた明日にします。
以上、「Bingsjölåtar i Uppland」のコンサートの和訳①をお届けしました。
テーマがわかりやすいコンサートで、演奏もMCも聴いていてとてもおもしろいです。
アコーディオン(キーボード)が入ると、全体的にゆったりとした雰囲気の曲に聴こえるように感じましたが、曲としてはかなり速い感じのもの(演奏者的には忙しい曲)が続くコンサートだと思います。
それを弾きこなせる3人、すごいなあと思いながら、明日以降の部分も見ていきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。