「Olov Johansson ソロコンサート」(2021)の日本語訳②です。
前回の①はこちら→「Olov Johansson ソロコンサート 」(2021)の日本語訳①
動画
前回の続きから(10:43~)再生します。
(前回の内容)
①「Bohlins skänklåt / Skänklåt efter Hellstedt」
②「Ballongen」
「※」の部分は私が書いた補足です。
(10:43~)
今演奏しました曲は「Ballongen(風船)」でした。
ここで楽器を持ち替えようと思います。
このコントラバスハルパを置いて…
というか、コントラバスハルパって変な名前ですよね。
「コントラバスハルパ」という名前だけ聞くと、何か大きい楽器かな?と思ってしまいます。
しかし実際のところは、弦の並びに名前の由来があります。
メロディ弦2本が、真ん中のドローン弦1本に「対して」(mot)向かい合って位置しています。
こちら(11:02)がドローン弦(Bordun、ボドゥーン)、低音(bas、バース)を出します。
そしてこちらの2本のメロディ弦が、ドローン弦(bas)に「対して」(mot=kontraコントラ)向かい合って位置しているのです。
(※kontraはスウェーデン語でmotの意味があります。motは英語にするとagainstやtoward、つまり「~に対して」というような意味です。kontrabas=mot bas=「ドローン弦に対して(向かって/向かい合って)メロディ弦が位置している」という意味になります)
理論的に作られたネーミングのように感じる人もいるかもしれませんし、実際のところ、そうなのかもしれませんね。(笑い)
そして今度は、1800年代のニッケルハルパを弾きたいと思います。
「silverbasharpan(シルベルバスハルパ)」です。
(楽器を首にかける)
これは歴史的に見て、ウップランド地方独特の現象だったと言えるでしょう。このような、様々なニッケルハルパの変遷とその演奏については。
シルベルバスハルパは、「Tierpsharpan(ティーエルプスハルパ(Tierpのニッケルハルパ))」とも呼ばれます。(※Tierpは地名)
私が今持っているこの楽器は、ちょうどそのTierp(ティーエルプ)で作られた楽器です。
(シルベルバスハルパがTierpsharpanとも呼ばれているのは)きっとこのタイプの楽器がTierpかその地域のあたりで生み出された楽器だと考えられているのでしょう。
さて、シルベルバスハルパで特徴的なのは、演奏のメカニズムです。
この楽器は4本の演奏弦(弓で演奏できる弦。メロディ弦+ドローン弦)があります。
そのため、自動的に重音が弾ける(※1つのキーで重音が弾けるものがあったり、重音が弾きやすい)という点も特徴的です。
(12:17~弾いて見せる)
演奏すると自分1人でちょっとしたオーケストラをやっているような感じです。
ただし、弾けるのは1つの調だけです。重音やコード進行などが合うように。
そのため、1800年代の初め頃、ニッケルハルパの演奏の伝統は1つの調に集中しました。
「ひゅっ」と。(せばまるジェスチャーをする)
C-dur(Cメジャー)です。(笑い)
そこで、人々はC-durを楽しむようになります。だいたい100年間くらい(笑い)、ニッケルハルパでね。
シルベルバスハルパでは、最初にまずスコットランドの曲を演奏したいと思います。
私のよき友人でありハープ奏者である、Catriona McKay(カトリオナ・マッカイ)に教わった曲です。
この曲は彼女と一緒に演奏しました。
シルベルバスハルパに合っている美しい曲だと思います。
「Rory Dall’s Port」という曲です。
私はこの曲に、Eric Sahlström(エリック・サールストルム)伝承の「Masbopolkett(マースボーポルケット)」を組み合わせたいと思います。
Eric Sahlströmは偉大なニッケルハルパ奏者です。
彼は最初はシルベルバスハルパを弾いていました。
Ericにとって最初のニッケルハルパはこのタイプのものでした。
※参考:Catriona McKay(Wikipedia日本語)→カトリオーナ・マッカイ(https://ja.wikipedia.org/wiki/カトリオーナ・マッカイ)
※Masboは地名で、Masbopolkettはマースボーのポルケットです。ポルケットは2拍子のダンス及びダンス曲です。
③(13:33~)「Rory Dall’s Port」&(15:26~)「Masbopolkett efter Eric Sahlström(エリック・サールストルム伝承のマースボーポルケット)」
(17:41~)
1つの調で弾くことのメリットは、楽器のキーのタンジェント、この突き出ている部分の方向(=キーの音程)を「その調に合わせて」微調節しておくことができることです。
その調での、ほとんど純正律に近い音程の幅になるように、タンジェントを調節しておけるんです。
(18:05~演奏してみせる)
例えばこんな風に。
こうすると、ぴたりと合ったたくさんの響きを生み出すことができるし、この「輝いている音」を出すことができます。
それがとてもカッコいいと思っています。
※↑この部分について、MCの途中ですが補足します。
チューニングをする際、すべての音の音程をチューナーの真ん中に合わせる(±ゼロにする)と、実際に「和音」となるような音を出した際に、美しい響きになりません。
例えばドミソの和音で言えば、「ド」と「ミ」を同時に出すなら「ミ」の音程を少し低くする必要がありますが、和音の組み合わせが変われば「ミ」に必要とされる音程もまた変わってきます。(常にミを低くしておくと、他の調や他の和音を弾く時にバランスがとれなくなります)
そこで、弾く曲の調が固定されていれば、曲中で出てくる和音の組み合わせもある程度限られますので、最初から「その調で頻出する和音」に合わせて、楽器のタンジェントの向き(音程の高低)を調節しておくことができます。
これにより、完全にとは言えないまでも、ある程度純正律に近い状態をあらかじめセットしておくことができる、ということをOlovは言っているのだと思います。
また、タンジェントについてはこちらをどうぞ→ニッケルハルパの解説記事4.「キー」
(補足終わり)
長いこと、私は「良いシルベルバスハルパ」を探していました。
そしてこの(今弾いている)楽器に出会いました。
当時の楽器の状態としてはあまり良い状態ではありませんでしたが、これは(修理・調節をすれば)良い楽器になるぞ、とその時に思いました。
自分で修理と調節をした後、この楽器を手に取り、いざ演奏し始めると、私はこの楽器に夢中になりました。
この楽器はFritz Widlund(フリッツ・ヴィードルンド)という人によって作られた楽器です。
彼はTierp郊外のFarsbo(ファーシュボー※地名)という村に住んでいました。
私は、彼は素晴らしい仕事をした(素晴らしい楽器を作った)と思っています。
彼のことは、ただ写真で見ただけですが。
この弓も彼が作ったものです。
ですから、私は彼をたたえたポルスカを作りました。
楽器の調節が完了した時、この曲を弾くことができました。
※Fritz Widlundの写真そのほか、楽器に関する参考:Olov JohanssonのHPの楽器紹介のページ(スウェーデン語、一部英語)→https://olovjohansson.se/nyckelharpa/
④(19:01~)「Fritz Widlund」 av Olov Johansson
続きはまた明日書きます。
今日ご紹介した2曲(3曲)と前回の「Ballongen」は、Olov JohanssonとCatriona McKayの2作目のアルバム「The Auld Harp」に収録されています。
以上、「Olov Johanssonのソロコンサート」(2021)の日本語訳②をお届けしました。
話も演奏も、とてもおもしろくて楽しいですよね。
明日以降の部分もお楽しみに。
お読みいただき、ありがとうございました。