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伝統曲を弾いていて、私が自分のオリジナリティを感じる瞬間

/ ニッケルハルパ奏者

先日、伝統曲について私がおもしろいと思うところを書きましたが、

伝統曲が自分にくれるもの

最後の方に、オリジナリティについても少しだけ書きました。

曲を普通に弾けばその人らしさ(その人のタイミングなど)は自然と出てくるので、私はあまり自分らしさを強調する必要は感じていませんが、1つ、自分がオリジナリティを感じる瞬間を思いついたので、書きたいと思います。

※「自分のオリジナリティを感じる瞬間」という表現がわかりにくいかもしれませんが、弾いていて「ああ、今これは自分の演奏だな」とか「自分らしい演奏だな」と感じる瞬間、という意味で使っています。

私が自分のオリジナリティを感じる瞬間

伝統曲を弾いていて、私が自分のオリジナリティを感じる瞬間は、

「Aさんが弾いている曲を、Aさんの演奏を参考にしながら自分で弾きつつ、『同じ曲をもしBさんが弾いたらこういう風に弾くだろうな』というのも同時に想像して、自分の思うAさん的要素とBさん的要素を取り入れながら、両方の要素が混じりあって自分にとってしっくりくる演奏になる時」です。

わかりにくくてすみません。

簡単にいうと、参考にしている奏者の要素を自分なりにミックスする、ということですが、ただミックスするというよりも、「視点を入れ替えて想像して、自分なりのプロセスを経る」ことが楽しいのだと思います。

先入観の壁

たとえば私の場合、Aさんの演奏を真似して弾いてみても、どの曲でも何かしら自分の先入観が入ってきてしまい(「この人はこの曲をこういう風に弾いている」というイメージを持ってしまっている)、どこかの時点で壁につきあたります。

そうすると、録音や動画を見ても、「自分が思う通り」にしか聴こえてこず、本当にAさんがやっていることとは違うもの(=Aさんの演奏に対する私の思い込み)を聴いてしまいます

その状態のままそれ以上練習しても、あまりうまくいきません。

Aさんっぽく弾いているはずなのに、Aさんの演奏とは全然違っていて、しっくりきません。

視点を変える

そこで、同じようなタイプの曲を演奏している別の人、Bさんの別の曲の演奏を聴いてみて、視点を変えます。

すると、たいてい「同じようなタイプの曲を演奏しているのに、AさんとBさんの演奏では聴こえ方/演奏方法が違うな」と感じます。

違うけど、どちらもいい演奏です。

「どっちもいいけど、どうしようかな、どっちを真似しようか」など色々考えて、試しに私が思うBさん的な弾き方をしてみます。

そうすると、当たり前ですが、Aさんの真似をしていた時とは自分の音や演奏が変わります。

迷いながら、とりあえずそのまま練習してみます。

聴こえ方が変わる

Bさん的な弾き方を少しやってみたところで、「どっちにしようかな」などと思いながらあらためてAさんの演奏(録音)を聴きなおしてみると、Aさんの演奏が違って聴こえてくるようになります。

Aさんの演奏だけを聴きつづけていた時よりも、Bさんをはさんだことで違う視点から音を聴けるようになり、Aさんが何をしているのかがよりはっきりと見えてきたり、Aさんの演奏の中にBさん的要素を発見したりします。

「なんだ、この人はこういう風に弾いていたのに、私には今まで全然聴こえていなかったんだな」と気がつきます。

反対に、Bさんの演奏の中にも、Aさんの演奏との共通点が見えてきたりします。

自分の中で混ざる

そういうことを繰り返しているうちに、私が感じるAさん的要素とBさん的要素の両方が、自分の中で混ざってきて、それらが自分にしっくりくるかたちで合わさってきます。

「自分にしっくりくるかたち」というのは、その時によって色々ですが、

・どちらかの演奏(Aさん、Bさんどちらか)にかなり寄せている場合

もあれば、

・自分なりにミックスしている場合

もあります。

たとえば、「Aさんの演奏を真似していた時にはAさんぽくならなかったけど、Bさんぽさを意識してみたら、結果的にAさんの演奏に近づいていって、それがしっくりくる」という時もあれば、

自分の好みで、両者の要素を意識的にミックスしている場合もあります。

(Aさん的なリズムをとりつつ、全体的な音質の雰囲気はBさん、とか)

実際にできているかよりも、自分でそう思う、ということです。

本人たちの生の演奏を想像する

録音や動画は、どうしても生の演奏の音と少し違ってきてしまいます。

なので、「録音や動画で聴こえる音から、本人たちの演奏をどう想像するか」というのを普段考えています。

誰かを徹底的に真似するとしても、その人の録音・動画だけからでは見えてこない/聴こえてこない要素がありますし、私自身の先入観も入ってきます。

他の奏者の演奏を意識するなど、視点を変えてみることで、「あ、この人はこういう風に弾いていると思っていたけど、もしかして少し違うのかも」と視点を広げることができます。

色々な方向から攻めていくことで、先入観が少しずつ崩れていって、一つの曲や演奏が、多角的に見えてきたり、聴こえてきたりします。

「Aさん的要素とBさん的要素を混ぜて弾いているつもりでも、実はAさんの演奏にすでにそれらが全部入っているかもしれない(録音だと聴こえなかったり、自分の耳で聴き取れていないだけで)」と、想像したりもします。

好きな要素

AさんであれBさんであれ、自分が誰かの演奏を参考にする際は、自分が好きな演奏や、好きな要素が入っている演奏を参考にするといいなと思います。

好きな演奏や、好きな要素、いいなと思うところというのは、努力して見つけるものというよりも、自然にぱっと入ってくるものを素直に選択するとうまくいくような気がします。

(「最初はいいと思わなかったけど、あとから好きになる」というパターンもありますが)

自分なりのプロセスで誰かの演奏に近づいたり、自分にしっくりくるものができあがること

誰かの演奏のエッセンスや、教えてくれた言葉の意図をくみ取るためには、自分の音楽的な理解力や想像力も必要です。

その人が言葉で説明してくれたことを、自分が誤解して受け取っている(解釈が違っている)ことも多くて、「ああ、こういうことだったのかも。私、勘違いしていたな」と、あとから思うこともよくあります。

また、教わった当時の自分の耳では聴こえていないこともたくさんあり、今になってやっと少しずつ聴こえてくることもあります。

色々な人の演奏を参考にしたり、自分の誤解に気づきながら、最終的に自分にとってしっくりくる演奏ができてくるととても楽しいし、「この曲をあの人っぽく弾いてみたい」という思いが少しでも達成されてくると、とても嬉しいです。

そんな風に、自分なりのプロセスを通じて、しっくりくる演奏ができるようになってきた時、私は自分の演奏にオリジナリティを感じます。


伝統曲を弾いていて、私が自分のオリジナリティを感じる瞬間について、書きました。

皆さんそれぞれにあると思いますので、ぜひ探してみてください。

お読みいただき、ありがとうございました。