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スウェーデンの昔の結婚式について

/ ニッケルハルパ奏者

昔の演奏家について調べていると、どの演奏家のエピソードにもほとんど必ず「結婚式で演奏していた」という記述が出てきます。

「そもそも、昔の結婚式ってどんな感じだったんだろう?」と思ったので、今回は、スウェーデンの昔の結婚式について、私なりにご紹介したいと思います。

演奏家による演奏

その前に少し余談です。

「演奏家を呼んで結婚式で演奏してもらう」というと、今の感覚ではなんだか贅沢な気もしますが、当時はデジタルの音楽が無かったので、演奏家が演奏しないと無音の結婚式になってしまうんですよね。

結婚式というのは、当事者だけではなく地域の人々にとっても一大イベントだったので、演奏家による演奏が欠かせませんでした。

結婚式での演奏というと、BGM的なものを思い浮かべるかもしれませんが、実際は「結婚行進曲」にはじまり、「ポルスカ」や「ワルツ」など皆で踊る曲の演奏、あとは「食事の席や乾杯の席での演奏」(配膳の間に演奏したり、演奏家自身がチップをもらうために演奏したり)など、式を通して、演奏が求められる場面は意外と多かったのではないかと私は思っています。

結婚式の行われた場所

中世の頃は、結婚式は「花嫁の家」で行われていました。

花嫁の父親が、花婿へと花嫁を渡すことによって、2人の婚姻関係が認められていたそうです。

また、昔から結婚式は宴(パーティー、披露宴)と結びついていたので、式への招待がそのまま宴への招待を意味しており、結婚式に人を招待することは、とても重要なしきたりだったそうです。

Bröllopの語源

少し話がそれますが、「結婚式」はスウェーデン語で「Bröllop」(ブロッロップ/ブルッロップ)と言いますが、こちらの語源の1説として言われているのが、「Brud+lopp」という単語の組み合わせです。

Brudは「花嫁」、Loppは、走ることや競争を意味しますが、この場合は「歩く」といった感じでしょうか。「式や宴の行われた花嫁の家から、新しい家に向かって歩いていくこと」を意味していたのではないかと言われているそうです。(おそらく諸説あると思いますが)

実際、花嫁・花婿たちによる「行進」が行われることはあり、その際はたとえば「演奏家・司祭・花嫁と花婿・そして招待客」といった並び順で行進をし、結婚式会場まで皆で向かったそうです(どこからどこへ行進するかは、もしかしたら時代によって変わるかもしれませんが)。

私の留学先の先生も、そういった行進で演奏をしたことがあると話していたので、今でも行われているのかもしれません。

教会で結婚式が行われるように

1734年に、「教会で挙式を行うことが、法律上唯一認められる婚姻関係にあたる」とされたことにより、以降、「教会」で結婚式が挙げられるようになります。

この頃の結婚式は、日曜日や祝日のミサと関連して行われることが一般的でした。

しかし、ミサと一緒に行うことによって招待されていない人(関係の無い人)まで結婚式に来てしまうことなどから、19世紀には、一部の身分の高い人々や富裕層が自分の屋敷で結婚式を挙げるようになります。

やがて、ミサとは関係の無い土曜日に結婚式が行われるようになり、20世紀頃には再び、教会での結婚式が一般的になりました。

結婚式の長さ・食事

結婚式は「数日間」、もしくは「それ以上の期間」行われました。

(※先日紹介したFrom-Olleの劇でも「式は一週間続いた」と言っていました)

親族や隣人が招かれ、食事や飲み物がたくさん用意されたそうです。

食事や飲み物は費用のかさむものでしたが、「招待客がそれぞれに料理を持ち寄る」ことで、うまくやっていました。むしろ、招待される側の人たちにとっては、様々な料理を持ち寄ることが、花嫁・花婿に対する自分たちの祝福の気持ちのあらわれでもありました。

飲み物については、結婚式を行う側が用意したそうですが、こちらもケチられることは無かったそうです。

食事の際も、演奏家による演奏が行われていたので、「料理名がタイトルについている曲」(肉料理の曲、とか)や、お酒の曲、乾杯の歌などが今も残っています。

18~19世紀の結婚式は、夏至や年末年始の時期に集中していたそうですが、これは人々が「休みの時期」であったことと、(収穫の時期や、夏至祭やクリスマスの関係で)「食料庫に食べ物が豊富にある時期」であったことが関係しているそうです。

花嫁の衣装

ウェディングドレス(黒から白へ)

昔は、正式な衣装は「黒い衣装」だったので、花嫁は黒いウエディングドレスを着ていました。

(※今回私が参照したページには書いていませんでしたが、ウエディングドレスではなく「民族衣装」を着ることも一般的だったと思います)

白いウエディングドレスが着用され始めたのは、19世紀の初め頃。最初は身分の高い人々や富裕層の間で取り入れられ、次第に広まっていったそうです。

冠、アクセサリー

花嫁は、冠とショールをかぶり、アクセサリーを身につけ、花束を持ちます。

冠をかぶるという慣習は、中世のグスタフ・ヴァーサ(グスタフ1世という王様)の時代(宗教改革)にさかのぼるそうです。彼による教会の銀への課税対策として、それぞれの地区が花嫁用の冠を1つか2つ保持することが許され、それらが地区の花嫁たちに貸し出されていたそうです。

(※ここ、もしも私のスウェーデン語の理解が間違っていましたらすみません。歴史がからむと難しいです)

結婚式が行われる教会の司祭の妻は、花嫁に衣装を着せたり、アクセサリや冠を貸し出すことで、少し余分に収入を得ていました。

正式に着飾られた花嫁は、それはもうクリスマスツリーのように、上から下まで、銀の冠や様々な装飾品で彩られていたそうです。

19世紀、教会ではなく自分たちの屋敷で結婚式が行われるようになった時には、教会の冠の代わりに、「ギンバイカ」(白い花)で作られた冠やリースを使っていたそうです。ギンバイカのリースは、すぐに社会に広まりました。

(※ギンバイカの花は、今でも結婚式などで使われるそうです→Wikipedia「ギンバイカ」(日本語)

20世紀に教会での結婚式が再び一般的になると、また銀の冠が使われるようになりますが、それまでのゴージャスなものとは少し違う、より薄い素材のエレガントな、プリンセスのような冠が人気になったそうです。

ご祝儀

結婚式のご祝儀ですが、昔も多くの場合は「お金」だったそうです。

ご祝儀の渡し方は、たとえば食事の間にご祝儀を入れる盃を招待客の間でまわして、その中にお金を入れたり(その間、演奏家が演奏をしたり)、

もっと厳格な場合は、招待客が結婚する2人の前に行き、ご祝儀を渡すと、司祭がその招待客の名前と金額を読み上げ、それを記録していた、ということもあったそうです。

そもそも、ご祝儀は「住民税の代わり」でもあったそうで、自分達がもらったご祝儀分は、隣人たちの結婚式で返すべきもの、とされていました。

ベッドへ皆で一緒に行く、朝の贈り物

Sängledning(ベッドへの導き)

かなり古い時代の風習だそうですが、Sängledning(セング・レードニング)というものがありました。

これは「招待客を含めた皆でベッドまで行き、結婚する2人が布団(シーツ)にくるまるのを見届ける」という儀式だったそうです。

2人が布団に入るのを見届けて初めて「婚姻関係が結ばれた」とするのだそうで、中世の地方法にもこのやり方が定められていました。

Morgongåva(朝の贈り物)

Sängledningとは別に、もう1つ古い時代に行われていた風習がMorgongåva(モロン・ゴーヴァ)です。

これは花婿から花嫁への感謝の気持ちだそうで、結婚式の最初の夜の翌朝、もしくはSängledningenのすぐ後に、花婿が花嫁に対して贈り物をしていたことを指します。

小さなものだとアクセサリーや服、大きなものだとお金、屋敷、土地などが花嫁に贈られたそうです。

ただし、これは「未亡人になった際の補償」を兼ねていたので、夫が亡くなるまでは、妻はこの贈り物を他人に譲渡したり、売ったりすることはできませんでした。また、何を贈ったのかは教会の方で記録していたそうです。

ダンス

結婚式でのダンスは、昔は特に欠かせないものでした。司祭でさえも花嫁と一緒に踊った、と言われています。

演奏はもちろん、演奏家によるポルスカやワルツなど。

「結婚式のポルスカ」「結婚式のワルツ」といった曲は今でもたくさん残されていて、演奏されています。

「花嫁はどの招待客とも必ず2回は踊る」というしきたりもあったそうで、女性客や子どもも含む、すべての招待客と花嫁が一緒に踊ったそうです。

また、結婚式は数日間続いたので、すぐに家に帰れる距離の人以外は、結婚式会場の近くで寝泊まりしました。その場合は、近隣の家も協力したそうです。

From-Olleの記事に書いた通り、若者たちは近くの小屋などにわらなどで作った長いベッド(寝床)で皆で(2人ずつ)寝る、ということもあったそうです。

参考

今回参考にしたページです。

Bröllopet i gamla tider(Vigsel.nu)

Bröllop förr och idag(SO-rummet)

Gamla bröllopsseder(Dellenportalen)

Wikipedia「Bröllop」(スウェーデン語)

Wikipedia「グスタフ1世(スウェーデン王)」(日本語)

Wikipedia「Brudkrona」(スウェーデン語)

Wikipedia「Sängledningen」(スウェーデン語)


スウェーデンの昔の結婚式について、紹介しました。

あまり細かいリサーチはできていないのでちょっと大雑把ですが、こういうしきたりがあったんだな~くらいに思っていただけると良いかなと思います。

実は昨日紹介したPekkosgården(ペッコス・ゴーデン。ペッコス・ペールらが住んでいた屋敷)のそばの、Danielsgården(ダニエルス・ゴーデン)の紹介の中で、女性2人による壁画の説明があったのですが、その説明の中でも「Morgongåva(朝の贈り物)」の様子を描いている絵、というのが紹介されていました。

From-Olleの記事を書いていた時にも、昔の結婚式について少し調べてから書いていたので、今回あらためてとりあげてみようと思いました。

結婚式関係の伝統曲はたくさんあるので、こういった事情を知っていると、伝統曲もより楽しめるのではないかと思っています。

私も、昔の演奏家やFrom-Olleの記事を書いてから、結婚式関係の曲を弾くのがより好きになりました。