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伝統音楽を紹介する言語を持つこと

/ ニッケルハルパ奏者

日本に帰ってきて、おそらく私が一番苦労した(している)ことの一つが、「伝統音楽をどうやって日本で紹介したらいいのか、全くわからない!」ということでした。

今回はこのことについて書きます。

スウェーデンではほとんど説明されない

以前も同じようなことをブログで書いていると思いますが、あらためて書いてみますね。

確かこちらの記事だったと思いますが→考えていること、当たり前のことを言葉で表現することの大切さ(伝統音楽・ニッケルハルパの場合)

スウェーデンの伝統音楽は、スウェーデンではある意味「当たり前」に享受されている文化なので、「伝統音楽とは?」というトピックであまり説明されることはありませんでした。

たとえば、どんな音楽なのか?とか、どんな時に楽しまれるか?ということは、いちいち言葉で説明されるものではなかったんですね。

「伝統音楽」と一言で言ってしまえば済む話だし、曲を聴いてもらえば済む話だし、という感じです。

私もそれに慣れていたし、しかもニッケルハルパで留学した時はスウェーデン滞在自体が4年目だったこともあり、「スウェーデンと日本の文化の違い」みたいなものもすんなりと受け入れてしまっていました。

何があっても、特に疑問に思わず、「へえ~」とすら思わず。ある意味では、スウェーデンに馴染んで生活していたところがありました。

私だけではないと思いますが、留学中って結構「なんでもあり」や「てんやわんや」な状態に慣れてしまうので、「ここではこうやるんだよ」と言われれば、どんな文化も普通に受け入れて、順応してしまう人が多いと思います。

私自身、そんな感じでなんでも普通に受け入れていて、伝統音楽の世界についても「なんかいいよね~(おわり)」ですべてを済ませていました。

日本でどうやって説明/紹介するのか問題

そんな「なんかいいよね~」は日本では通じない、ということに気がついたのは、日本に帰ってきてからでした。

そこから、私の「伝統音楽をどうやって日本語で紹介するか問題」との付き合いが始まりました。

いつも思うのですが、スウェーデンの文化の紹介って、他の日本人の方が日本語でしていると「そうそう!」「あ、それを言えば良かったのか!」「確かに、そう言われると納得!」といつも感心してしまいます。

他の人が紹介している内容は自分でも知っている内容なのに、つい自分だと「どうやって紹介したら良いのかわからない…」「え、これ、言っちゃっていいの?言い切っちゃっていいの?」となってしまうんです。

それで、他の人が紹介しているところや文章を見ると「あ、素直にこう言えば良いのか」とわかり、自信がつき、自分でも紹介できるようになるのですが。

私はこれは、「食レポ(グルメリポート)」に近いと思っています。

同じものを食べていても、食レポ経験のある人ならいくらでも上手く表現できると思いますが、経験が少ない人にとっては「『おいしい』以外に言えない…」となりますよね。

情報の切り取り方や、日本語での伝え方、表現の工夫など、スウェーデンの文化や伝統音楽の紹介って、実は「リポーターとしてのスキル」のようなものが必要とされるし、言葉のチョイス一つにしても「この文化を紹介するための『言語』」をいかに獲得するかにかかっているのだ、と感じるようになりました。

文化の紹介スキルは、一つの「言語」の獲得なんです。(私にとって)

「こういう状況では、こういう言葉(表現)を使うと伝わるよ」という経験の積み重ねです。

スウェーデンで、体当たりでスウェーデン語を学んできたのと同じように、私は今度は日本で、日本語で、自分の見たスウェーデンの人たちの姿や文化を紹介するための言語を地道に獲得していこう!と思いました。

たとえば

たとえばですが、伝統音楽やニッケルハルパに関しては、数年かけてやっと、こんな言葉で表せることがわかってきました。

私が伝統音楽を紹介する時の語彙例(日本語)はこちらです。

素朴、美しい、癒される、おもしろい、歴史がある、思い出がある、個人的、シンプル、遊び心がある、自由、ゆらぎがある、土のにおいがする、楽しい、生活に根差している、人の自然な動きに合っている、自然体

また、ニッケルハルパを紹介するならこのような感じです。

豊かな響き、美しい、響きが重なっていく、優しい、ゆらぎがある、軽やか、土のにおいがする音、楽しい、癒される、広がりがある

などなど。

スウェーデンを紹介する際にも、スウェーデンのいいところは私はたくさんあげられますが、「自分が特に、スウェーデンの何に興味を抱いているのか」について、最近になってだんだんと日本語で説明できるようになってきたと感じています。

言葉と気持ちが合っていないと、聴いている側は違和感を感じる

上に書いたような単語というのは、別にこうして見ればなんということはない単語だと思いますが、これらを思いつくまでに私の場合は数年かかりました。

(長くて地道な道のりですが、なんとかここまで来られたことは嬉しく思っています)

留学から帰ってきた当初は、もう本当に、苦しみながら語彙を絞り出して紹介していて、「自分の気持ち」と、「紹介した時の言葉」がしっかりリンクしていないこともあったと思います。

「伝統音楽ってどんな音楽なのか?」と聞かれた時に、「とりあえずカッコいい音楽!」とか、「なんかエネルギッシュな音楽!」とか。

とりあえず、伝統音楽のことを良いと思ってもらいたい!という気持ちで、頑張って答えていました。

もちろん「カッコいい」とか「エネルギッシュ」とか思っていなかったわけではありませんが、それはおそらく「特定の奏者の演奏」に対して思っていたことで、私が思う「伝統音楽全般の魅力(素朴、美しい等)」とは微妙にずれていたかな、と思います。

そういう微妙なずれというのは、お客さん側は敏感に察知してくださるので、ちょっと「うん?」となるんですよね。私が自分でそう感じていただけかもしれませんが。

自分が「自分の気持ちに合った言葉」を選びだせるようになることは、紹介を聴く側、音楽を聴く側の「聴きやすさ」にも大きく影響してくるのだと感じました。

私が本当に良いと思っているスウェーデンの伝統音楽の魅力・ニッケルハルパの魅力・スウェーデンの文化の魅力と、それを紹介する時の私の紹介の仕方が、ちゃんと対応しているのかどうか。

この一貫性は大事だと思いました。

自分で探す/見つけるしかない

それで、この「自分の気持ちに合った単語」をどうやって見つけるかですが、これはもうひたすら考えたり、口にしたり、こうしてブログで書いたりして、表現して経験するしかないのかなと思っています。

おそらく、「見つけよう」と思わない限りは見つからないので、あえて自分で見つけていくしかないのです。

この音楽/曲/楽器の響きの魅力を表すにはどんな言葉が当てはまるのか?

この曲に関して自分が感じている気持ちは日本語でなんなのか?

どの言葉を選べば、スウェーデンの人たちの様子をシンプルに伝えることができるのか?

考えれば考えた分だけ、おそらく、より簡単に・シンプルに、自分の気持ちが伝えられるようになると思います。

反対に言うと、考えるのをやめてしまったら、思いつかないままな気もします。

私が提供できるものは、メインは音楽ですから、言葉ではなく、音楽だけを聴いて伝わるのが理想かもしれません。

しかし、言葉での紹介は音楽の体験の入口になります。

この音楽の良さはなんなのか?というのを少しでも先に伝えてもらうだけで、聴く側の聴きやすさは段違いになると思います。

私は今でもスウェーデン語を一応日々学んでいますが(スウェーデンのTV番組を見ているだけですが)、それと同じように、自分の気持ちや、自分のスウェーデンでの体験を紹介できる「言語」を、日々学んでいきたいと思います。


以上、「伝統音楽を紹介する言語を持つこと」について書きました。

ちなみに先週、MCの練習というか、MC用の原稿の練り直しをしながら一人で喋りすぎて、本番当日にのどが痛くなるという本末転倒な事態になりました。

話すのが苦手なので、練習しなくちゃ!と思っていたのですが、練習もほどほどにしようと思いました。

引き続き、頑張っていきたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。