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Viksta-Lasseについて

/ ニッケルハルパ奏者

先週、Eric Sahlström(1912-1986)について書きましたが、彼とよく一緒に演奏していたフィドル奏者に、Viksta-Lasse(ヴィークスタ・ラッセ)という人がいます。

今日はこの人について書きます。

Viksta-Lasse(ヴィークスタ・ラッセ)

Viksta-Lasse(1897-1983、ヴィークスタ・ラッセ)

・本名はJohan Leonard Larsson。(Johan抜きで”Leonard Larsson”とも書かれます)

・ウップランド地方のViksta(ヴィークスタ)という所に住んでいたので、Viksta-Lasseという名前で呼ばれた。

・出身地はVikstaのRisby(リースビー)。1926年以降は、VikstaのEklunda(エークルンダ)に住んでいた。農民。

こちらの動画の人です。

Viksta-Lasseが参加している動画や録音などでは、よく彼の話し声や笑い声が入っています。

よく笑い、よく話す、陽気でかわいらしいおじいさんという印象の人です。

一方で、演奏はとても美しいというか、話している時の陽気な感じとはまた違う雰囲気を私は感じます。

Eklundapolska(エークルンダポルスカ)nr.1~3や、Polska till Wikなどが有名です。

※参考までに:Polska till Wikについて

父親から曲を教わる

Viksta-Lasseが楽器(フィドル)を弾き始めたのは10歳の頃。

最初は、葉巻タバコのケースで作ったフィドルを弾いていたそうです。おそらく、その後すぐに普通のフィドルも始めたのだろうと思いますが。

(葉巻タバコのケースで作ったフィドル、というのは、あまり想像がつかないかもしれませんが、「cigarrlåda fiol」で検索すると画像が少し出てきます。cigarrlådaはシガレットケース、fiolはフィドルです。ケースで作ったギターの画像なども出てきます)

Viksta-Lasseの父、Lars Larssonは、フィドル奏者Gås-Anders(1815-1896)をはじめ、地域の演奏家たちの演奏曲や、地域に伝わる伝統曲をたくさん知っていました。父Larsがそれらの曲を歌ってくれたり、1列のアコーディオン(enradiga dragspel)で弾いてくれたことで、Viksta-Lasseも曲を覚えたそうです。

Hjort Andersとの出会い

さらに、Viksta-Lasseはほどなくして、フィドル奏者Hjort Anders(1865-1952、ヨート・アンダーシュ)と出会います。以降、Viksta-LasseはHjort Andersを師として、演奏スタイルから曲に至るまで多くのことをHjort Andersから学び、一緒に演奏しました。

Hjort Andersは、その頃には既にウップランド地方に住んでいましたが、もともとはダーラナ地方のBingsjö(ビングショー)出身の奏者です。そのため、Hjort Andersが演奏する伝統曲にはBingsjöの伝統曲がたくさんあり、演奏方法もまたBingsjöの伝統を受け継いでいました。

そのHjort Andersが、1906年以降ウップランド地方に住み、Viksta-Lasseをはじめとするウップランド地方の若い奏者達に曲やリズムを教えていったことで、Bingsjöの曲がウップランド地方でもまた弾かれ、しかしウップランド地方の伝統とも混ざり合い、独自性を帯びながら、ウップランド地方の伝統の一つになっていきました

この流れは非常におもしろいと思います。


ちなみに、話は少し逸れますが、この流れを継いでいる現代のフィドル奏者が、例えばErika Lindgren Liljenstolpe(エリーカ)やRobert Larsson(ローベルト)です。このお二人は、以前ご紹介した動画の「Maskin(マフィーン)」というトリオでも一緒に演奏しています。

Maskinを紹介した時のブログ:Gås-Andersについて

また、この二人がBingsjöの曲を演奏しているLive動画もあります↓

Live配信なので少し音割れしていますが、こちらの動画の最初にソロで弾いている男性がRobert、女性がErikaです。ソロが終わってからの曲(2曲目)は、さきほどViksta-Lasse自身が動画で演奏していたものと同じ曲になりますが、これは「Viksta-LasseがHjort Andersから教わった”最初の曲”」なのだそうです。「」内はErikaのMCより

有名なEklundapolska(エークルンダポルスカ)

若かりしViksta-Lasseは、ある晩、HjortAndersから出された演奏技法の宿題を練習していました。※注1・2参照

すると、練習している間に新しい曲が1曲できあがりました。

これがEklundapolska nr.1(エークルンダポルスカ1番)です。

このEklundapolskaは、後にViksta-Lasseの代表曲の一つとなりました。1番・2番・3番とありますが、特に1番と3番がよく弾かれています。(2番も弾かれますが)

(さきほどのErika・Robert・Örjanの動画でも、3曲目(ErikaのMC後すぐの曲)にこのEklundapolska nr.1が演奏されています)

Eklundapolskaの1番と3番、それぞれ2つずつ動画か音源を載せていますので、ぜひお聴きください。

 

※1:Viksta-LasseがEklundapolskaを作ったのは、彼がだいたい「11~13歳頃」のことだと聞きました。私の記憶が少し曖昧で、すみません。

※2:Hjort Andersから宿題として出されていたのは「トリルの練習」だったと私は聞いていたのですが、Erika・Robert・Örjanの動画では「Rullstråk(Konsumstråk、Gungstråk)」という、弓をジグザグさせる演奏技法の宿題だった、と説明しています。こちらの情報の方が正確な気がします。ちなみにこの演奏技法は、フィドルでもニッケルハルパでも非常に重要な演奏技法の一つで、動画でもRobertがやって見せてくれています。


以上、Viksta-Lasseについて、でした。

Viksta-Lasseもまた、他の奏者同様、後世の演奏家にたくさん影響を与えた人です。

今回書けなかった情報もあるので、また機会があれば補足していきたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。

参考・出典:”Uppländke spelmän under 4 århundraden” Lars Erik Larsson